会社内で安くランチを食べることの出来る食堂として、かつては社員の利用者も多かった社食ですが、最近、若者を筆頭とするサラリーマンの考え方の変化により、その社食が危機に直面しています。各会社が、料金を無料にしたりメニューにこだわりを持たせるなどの工夫を施す中、もう少し抜本的な改革が必要との声も上がってきています。今回は、本当に求められるべき社食の姿について探りたいと思います。
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最近では人材確保のために、会社の福利厚生を手厚くすることが求められています。その中でも社員食堂の充実が注目されていますが、現在の社員食堂の利用実態はどのようになっているのでしょう。
株式会社リクルートライフスタイルの外食市場に関する調査・研究機関が昨年行った調査で、社員食堂に対するアンケートを実地したところ、昼休みに社員食堂で昼食をとれる人は全体の22.7%で、その中のほぼ半数である45.8%の人が、社員食堂を使える環境でありながら、ほとんど社員食堂を使わないという結果でした。
使わない理由としては、味への不満や、メニューの種類の乏しさが挙げられ、反対に使っている理由としては安さや、手軽さが時間短縮につながることが挙げられました。利用している人は外に出るのが面倒、昼寝休憩の時間を確保したいなど、なるべく早く手軽に昼食を済ませたいという理由から社員食堂を使っています。
社員食堂を使わない人はメニューや味に変化がなく飽きたなどの理由で、コンビニ弁当やお弁当を持参したり、外部の飲食店へ出向いたりしているようです。また、一人の時間を確保したいため、社内の人間でいっぱいの慌ただしい雰囲気の社員食堂には行きたくない、または一人で座れるカウンター席を充実させて欲しいという意見もあります。今後の社員食堂に期待されることは、やはりメニューの選択肢の多さであり、健康志向の女性の支持を得るには、旬の食材を取り入れた、栄養バランスを意識したメニューの充実が求められるでしょう。
社食の新しい形社員食堂というと、社内のある食堂スペースに足を運び、メニューを注文して専任のスタッフに調理してもらう形が多いため、場所を取り、コストもかかるので設置できるのは大きな企業に限られるでしょう。
社員の健康を考える上でも、コンビニ弁当や外食ばかりではなく、社員食堂で栄養バランスがとれた食事を提供したいところです。そこで、社員食堂がない企業でも、簡単に健康に気を使った食事を提供できるサービスが「オフィスおかん」です。
会社に専用の冷蔵庫が設置され、冷蔵庫の中には筑前煮やサバの味噌煮などの真空パックが施された惣菜が、定期的に補充されます。社員はパックから容器に移して電子レンジで温めるだけで、まるでお母さんの手作り料理のような健康的でおいしい料理が食べられます。
無添加でありながら、賞味期限は1ヶ月と長く品質が保たれます。お惣菜のパックは1パック平均100円で、管理栄養士監修の栄養満点食材であり、日本各地のお惣菜メーカーとパートナーシップを結び、旬の食材やその土地ならではの郷土色を感じられるお惣菜が、毎月変わるのも魅力的なポイントです。
中にはお惣菜を自宅に持ち帰って、夕飯のおかずにしたり、翌日のお弁当に詰めたりして活用する働くママもいるようです。また、置き型の社員食堂は社内の人間が気軽に集まれる効果も生み出したと言います。オフィスの中にすぐに食べられる総菜があることで、ランチ休憩の時間や仕事が終わった後に、すぐに集まって歓迎会などを開きやすくなったということです。温めるだけで美味しいおつまみができるため、いちいち外出して買い出しに行く手間も省け、飲食店で飲み会を開くより低コストで気軽に集まることができます。
コワーキングスペース運営やweb制作を手がける企業「LIG」では、社員食堂として従業員たちが自由に使えるキッチンカウンターを設置しています。ランチタイムには自炊できるスペースとして、夜はバーとして社員交流の場となっているようです。キッチンカウンターは社員たちが主体的に使うことがコンセプトとなっており、会社からは週に1回程度の頻度で、野菜や肉類、パスタなどの補充があります。
キッチンカウンターでができたきっかけは、同じ時間を過ごすなら楽しい方がいいという社長の提案からです。設置直後は社長自らキッチンカウンターを積極的に利用して、社員に手本を見せたそうです。
プレスリリース配信のPRを手がけるTIMESでは、社員の増加に加えて、就業時間が職種によって異なることもあり、同じ会社内にいても面識がない従業員が増えました。そこで、顔を合わせる機会が自然に増えるオフィス空間を目指し、「TIMES GArDEN(タイムスガーデン)」というコの字型のキッチンカウンターを設置しました。キッチンカウンターでは月に2回、従業員みんなでケータリングのランチを楽しむ企画が行われています。
そして毎日のランチタイム後には、元小学校教師がオーナーである「私立珈琲小学校」から派遣されてきたバリスタが淹れる、本格的なコーヒーを味わえます。さらに週に1回夜間に行われる「ガーデンナイト」では、従業員が集まり、ゲームをしたり、映画観賞をしたりと社員交流の場となっているようです。
レシピ専門サイトを運営するクックパッドでも、30~40人の従業員が同時に調理可能なキッチンカウンター「SharedKitchin&Lounge」を設置しています。キッチン内には大型の冷蔵庫が置かれており、玉ねぎ人参などの根菜類を常温で保管できるスペースもあります。キッチンに常備されている食材はすべて無料で使用でき、毎日ランチタイムになると部署をこえて多くの従業員が集まって、ランチを手作りして楽しんでいるようです。
いずれの例も、キッチンカウンターというオフィス空間を上手く活用し、社内コミュニケーションを活性化して仕事に活かすということがねらいです。
健康面が気になり始めたので、栄養バランスを考えた食事をとりたい。低コスト短時間でランチを済ませたい。休憩時間は一人の時間を確保し、リラックスしたい。ランチ時間は他部署の人間などとの交流の機会にしたい。などと、社員の要望は多岐に渡ります。それら様々な要望に応えること。
また、経営陣営の期待としては、社食の空間をただの食事の空間だけに留めておくのではなく、様々なコミュニケーションの場として活用できるよう、どのように工夫すれば社員の生産的な場につながるのか?ということを今一度考える時期に来ていると言えます。それをいち早く実行していく行動力のある会社こそが今後の発展を見込めるのだと思います。
これまでのありきたりな社員食堂を柔軟な形で進化させ、社員と経営視点の両面の満足度の向上を図ることが、本当の意味での会社の福利厚生の充実と言えるのではないでしょうか。
【文責:編集部】