すべての会社にとってやがては必ず訪れる問題…それは「事業承継」。知っておかないと〝えらいことになる〟事業承継にまつわるトラブルについて、「保険営業の虎」大坪勇二が訊く! ゲストはこの問題に詳しい小原恒之弁護士です。
大坪:小原先生は「事業承継」や「M&A」に詳しい弁護士さんですよね。実際、そういう案件を扱ってきて、「今」はどんな状況なんでしょうか。
小原:ちょっと図々しいですけど、「やっと自分の時代がきたな」みたいな感じがしていますね。
今までは「事業承継」といえば、圧倒的に多くの方が「財務」とか「税務」とか、特にご自分の会社の株式のことにしか意識が向かわれてない方が多くて……。
大坪:そうですよね。僕もFP、保険屋として事業承継に関わってますけど、大体そんな感じですよね。
小原:はい。税務と財務をきっちりおさえて、特に自社株対策…要するに株価を下げる施策を税理士さんなどに勧められておやりになる。そんな財務税務株式対策ができると、もう「事業承継の対策がぜーんぶ終わりました。さあ、安心!」という方が非常に多かったんですが……そういった社長さんのご家庭が、10年20年経って、えらいことになってしまう。
大坪:と、おっしゃいますと?
小原:いわゆる「争族」ですね、相続争いが起きてしまうというケースがとても多いんです。
大坪:うう、それは嫌ですね。差支えない範囲で伺うと、例えばどんなことが起こるんですか?
小原:例えば「バッドエンド」としては大きく2つあります。
1つは、せっかく創って育てた大切な会社が、社長さんが亡くなった後につぶれてしまうという、バッドエンド。
もう1つは、社長さんの亡くなった後、大切なご家族が、憎しみ合ってバラバラになってしまうというもの。社長さんであったお父さんのお墓参りにも来てくれない。家族がバラバラになってしまう。
大坪:うわ……。
小原:さらに最悪なのは、その両方が起きてしまうという……。
大坪:どれも嫌ですねー。でも、ちゃんときっちりプランニングしたはずなのにそんなことが起こってしまうのはどうしてですか?
小原:実は、プランニングしたつもりで、してなかったということです。
社長さんにとって、会社の事業承継っていうのは、非常に広い、いろんなことしなきゃいけない大変な作業なんですよね。
大坪:ええ、そうですよね。
小原:「財務」だとか「税務」っていうのは、その一部にすぎないんです。「事業承継」っていうのは会社のいろいろなリソース、資産やシステムの引継ぎです。自分の代から次の社長に代替わりしても、会社が今まで通りスムーズに回っていくために必要な財務税務の引継ぎをはじめとした、会社のリソースの引継ぎ。
でも、それとは別に「社長さん個人の資産」というのも出てくるんですね。それが要するに社長さん個人の「相続」の問題です。
「社長さん個人の財産と会社、関係ないんじゃないの?」って思われるかもしれないですが、社長個人には、会社経営に直結する大変な資産があるんです。それが「自社株」です。自社株の持ち主、所有者は社長さんです。その自社株を次の社長さんにそのまま引き継がせないと、会社の経営がガタガタになってしまいます。
でも「だって株式って、過半数あればいいんでしょ?」っていう考え方もありますよね?
大坪:はい。そう思いがちですよね。
小原:ところが、会社の場合、過半数では決められないことがあります。「特別決議」といって、2/3ないと決められないってことが結構ある。例えば、合併とか事業の譲渡、買収とか、定款の変更、資本の減少とか。
例えば「ちょっと会社の業績が思わしくなくて、資本金を減らして、お金つくんなきゃ」っていうようなこと……。
大坪:そういうこと、ありますもんね。
小原:ただそんなこと簡単にやると大変ですから、定款で〝縛り〟が入っているわけです。その定款を変えるとか、資本を減少するとか、そういうことをやるには、過半数で簡単にやられちゃ困るので、2/3以上の決議がないとできないわけです。
2/3の決議があれば最低限はいいかもしれませんが、でもできれば、今まで社長さん1人が株主であったのであれば、やっぱり1人の株主がやっていく方が、意思決定もスムーズに、好きにできますよね。
大坪:そりゃそうですよね、ええ。
小原:それが例え2/3持っていても、残り1/3の人と協議してやんなきゃいけないっていうのが……。
大坪:あ、すごくやり辛いと思いますよ。
小原:そう、やり辛いです。スピードがそがれますしね。なので、理想はあくまでも、社長さんが持っている株式100%をそのまま跡継ぎさんに継いでもらうことが理想です。
大坪:そうですよね。
小原:それが、最悪でも2/3は持っていただく。ところが最悪の場合、その社長さんが何も遺言を残さずに、税務と財務の会社のケアだけやって亡くなった場合に。会社の持ち株という社長さんの資産が、お子さんたちに引き継がれるんですが。遺言がないと、共同相続っていう形で、頭割りになっちゃうんです。
大坪:……最悪ですね。
小原:最悪。例えば奥さんが先に亡くなっていて、お子さんが3人いた場合、1/3ですよ。
大坪:そうですよね。
小原:社長さん、跡継ぎさんも1/3しかもらえない。残りの弟2人が手組んだら追い出されちゃいます。
大坪:それにその体制で上手くいくとは思えない。
小原:いくはずがない。
大坪:素人が1人いたら、もう会社経営なんて全然できないですよね。
小原:できないです、できないです。
大坪:ただでさえ中小企業なんて頑張って頑張って、上手くいってちょっと黒字が出るみたいな感じじゃないですか。たちまち沈んじゃいますよね。
小原:まさにそれで会社潰れちゃうんですよ。いくら財務、税務をきっちりやっても、社長さん個人の相続をノータッチでやっていくと、最悪「会社が潰れてしまう」という事態も起こります。兄弟たちが本当にいがみ合って、大ゲンカで。
大坪:本当ですよね。
小原:長男は家から追い出されて、会社からも追い出されて、結局その次男・三男もケンカ別れして。もう3人兄弟顔も見たくない感じになって。誰もそのお父さん、お母さんのお墓参りに来ない。
大坪:なるほどね、そういった相続事業承継の最前線で、先生はさまざまな状況を見てこられたわけですよね。
小原:はい、おっしゃる通りです。事業承継……本当に大変なことなんですよ。
◆小原恒之(おばら・ちかゆき)
弁護士法人リーガルスピリット代表弁護士
合同会社リーガルスピリット代表(グループホーム
「ブライトサイド」運営)
◆聞き手 大坪勇二(しごとのプロ出版代表)
1964年 長崎県生まれ
九州大学卒
コンテンツプロデューサー
「稼ぐプロを作るプロ」
大企業新日鉄の経理マンに飽き、ソニー生命の歩合営業マンに転身するも2年間ダメで貯金が底をつき、身重の妻と月11万円の住宅ローンを抱えて、手取り月収が1,655円とドン底の時にやる気スイッチオン。
6ヶ月間の「大量行動」で富裕層とのパイプが開け法人超大型契約で手取り月収が1,850万円に。現役11年間で累計323億円の金融商品を一人で販売。
その後、「社会の問題を、仕事のプロを育てることで解決する」をモットーに出版社を設立。現在に至る。障がい者福祉事業、複数の社団法人オーナーでもある。
著書に『手取り1655円が1850万円になった営業マンが明かす月収1万倍仕事術』(ダイヤモンド社)『月収1850万円を稼いだ勉強法 ~伝説の営業マンはどう学び何を実践したのか~』(祥伝社)などがある。