多様化し、グローバル化した現在のビジネスシーン。
リーダーが個々のメンバーの能力を引き出し、結果を出すためには、「多様な言語スタイル」を理解し、コミュニケーション能力を高める必要があるのです。
言語スタイルとは、その人の話し方に表れる特徴的なパターンのことだ。それには、直接的に表現するか間接的に表現するか、ぺーシング(相手の話し方や呼吸などに合わせること)や、ポージング(間の取り方)、言葉の選択、さらには冗談、たとえ話、ストーリー、問いかけ、謝罪などの要素をどう使うかといったことが含まれる。言い換えれば、言語スタイルとは、自分が意味することを相手に伝える方法であるだけでなく、相手の言葉の意味を解釈し、互いを評価し合う際に使う文化的に学習されたシグナルの総体である。(デボラ・タネン)
ジョージタウン大学教授のデボラ・タネンはコミュニケーションの専門家ですが、『ハーバード・ビジネス・レビュー コミュニケーション論文ベスト10 コミュニケーションの教科書』の中で、言語スタイルの重要性を指摘します。
男性と女性は言語スタイルが異なるために、男性上司は女性の話し方から、自信のなさを感じ、昇進に影響を及ぼすことさえあります。
女性の能力を引き出し、結果を出すリーダーになるために、上司は男女の言語スタイルの違いについて、理解しておく必要があります。
会話とは、複数の人が自分の順番が来たら話をするというやり取りです。
一人が話している間、もう一人は話を聞いてそれに返事をします。
一見単純に見えるこの会話の中にも、相手は話し終わったのか、ここで自分が話し始めて大丈夫かという、微妙なシグナルの交換が行われています。
生まれ育った国や地域、民族的背景などの文化的要因は、言葉と言葉のあいだにどれぐらいの間を置くのが自然なのかにも影響しています。
言語学者が知る限り、あらゆる人間集団において、男性と女性の言語スタイルには違いがある。場合によっては、ほとんどの男性が自然と感じるスタイルが、ほとんどの女性には不自然と感じられることもある。なぜなら、私たちは大人へと成長する過程で、仲間との関係の中で言語スタイルを習得するが、子ども時代は特に同性の仲間と遊ぶ傾向があるからである。
遊んでいる米国の子どもたちを対象として、社会学者、人類学者、心理学者たちが行ったある研究によれば、男の子も女の子も会話を通じてラポールを育み、力関係を定めていきますが、女の子は人間関係に重きを置いた話し方をする傾向があり、男の子は序列や立場を重視する傾向があることがわかりました。
女の子は一人の親友、もしくは小人数のグループで遊び、長時間おしゃべりをする傾向があり、お互いにどれほど親密になれるかを探るために言語を用います。
女の子は、一方が他方より優れていることを誇示するような会話スタイルは採らず、みんな同じだということを示すような話し方をします。
ほとんどの女子は、子どもの頃から、あまりにも自信たっぷりに話すと友だちの不評を買うことを学びます。
逆に、男子は大勢の男子中心のグループで遊びますが、そこでは全員が平等に扱われるわけではありません。
リーダー格の子には、他のメンバーに歩み寄ることより、リーダーとしての地位を強調することが期待され、通常、一人またはごく少数がリーダーと見なされます。
男の子は一般的に、偉そうにするといって誰かを非難することはありません。
男子は、能力と知識を示し、他の子に挑戦し、他の子からの挑戦を受けて立つことによって集団の中での地位を固めていき、そのためにどんな話し方をすればよいかを学びます。男子も女子も、子ども時代に仲間と遊ぶ中で、自分の会話スタイルのほとんどを学んでいきます。
これが未来の職場でのコミュニケーションにも影響を及ぼすのです。
男性は会話の中に潜む上下関係を決めるパワーダイナミクス(権限の力学)に敏感な傾向があり、みずからを他者の上に立たせるような話し方をし、他者が自分を下位に追いやるような話し方をすることに抵抗する。女性は関係を築くラポールダイナミクス(親密さの力学)に反応する傾向があり、他者を立てる話し方をし、相手を見下していると取られかねない内容は和らげて表現する傾向がある。
女性は他者を立てる話し方をするために、男性の上司から評価してもらえないのです。
ハイテク企業の上級研究員であるベロニカには、優れた観察眼を持つ上司がいました。
上司は、グループから生まれたアイデアの多くはべロニカのものだとわかっていましたが、他の誰かが自分の手柄のように吹聴していることに気づいていました。
彼はベロニカに自分の手柄だと言った方が良いとアドバイスをしましたが、彼女はそんな手柄の奪い合いのような仕事の仕方には魅力を感じないし、やりたいとも思わないと答えたのです。
動機は何であれ、女性の多くは、男性のように名乗りを挙げて人前に立つことを学んでいません。
そして、そんなことをしたら嫌われると思っている女性は男性より多いのです。
多くの女性が、人を押しのけるような方法で自分をアピールすることをためらうため、貢献に見合う栄誉を得られずに終わるおそれがあります。
謙虚さを示そうとするか、自信を示そうとするかは、子ども時代に遊び仲間との関係の中で培われた社会化の結果である。成人後も、女性は女性、男性は男性で、同じ規範を共有する友人や親戚からそれぞれの傾向の強化につながる反応を示されることが多く、身につけた傾向をさらに強化していくことになる。
女性に比べ、男性は迷子になった時に人に道を尋ねないことがわかっています。
男性は人に道を尋ねると自分が一段引き下げられると感じているからであり、「自分の道は自分で切り拓く」という独立心に価値を置いているのがその理由です。
他の場面でも、男性は女性ほど質問しませんが、それは、男性は女性よりも、質問するのは面目を失うという感覚を強く持っているからなのです。
質問をしたら否定的に評価されると考えている男性は、その裏返しで、質問をする人にマイナスの評価を下しがちです。
こういった男女の言語スタイルの違いが、職場の空気を悪くします。
著者は、米国のビジネス界を支配している規範は男性の言語スタイルに立脚していると指摘します。
しかし、これを放っておくと、女性やマイノリティの能力が評価されないことになり、組織のパフォーマンスは低下します
言語スタイルのダイナミクスを理解しているマネジャーは、部下全員の考えに耳を傾け、しかるべき承認を与える方法を工夫することができる。あらゆる状況に適した万能の方法はないが、会話スタイルが持つ意味を理解しているマネジャーは、会議を主催する場合でも参加する場合でも、部下に対するメンタリングやキャリア支援を行う場合でも、あるいは人事評価の面談でも、相手や状況に合わせて柔軟に対応することができる。
話すことと聞くことは、マネジメントに血を通わせる重要な要素だと著者は述べています。
同じことを言うにしても、話し方は人によって千差万別であることを理解していれば、さまざまな言語スタイルの人材を活用することができます。
日本においても女性や外国人と働くことが当たり前になっています。
職場が文化的に多様化し、ビジネスがグローバル化した現在、マネジャーはこれまで以上に部下の発言の意味と気持ちを正しく読み取り、相手に合わせて自分のスタイルを柔軟に調整できるようにしなければなりません。
部下の能力を話し方によって、判断するのをやめ、彼らの能力を引き出すことをリーダーは目指さなければならないのです。
複数の広告会社でコミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、取締役や顧問として活躍中。インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO/Iot、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役/みらいチャレンジ ファウンダー他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。
サードプレイス・ラボのアドバイザーとして勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
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