「部下をうまく叱ることができない」
「若い社員とどう交流したらいいかわからない」
……そんな悩みを抱える経営者、リーダー、マネジャーが多く存在します。
今回は「行動科学マネジメント」の第一人者・石田淳氏に、部下との上手なコミュニケーションの取り方についてうかがいました。
(聞き手・編集部中西)
石田淳
株式会社ウィルPM インターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者。社団法人行動科学マネジメント研究所所長。一般社団法人組織行動セーフティマネジメント協会代表理事。米国行動分析学会 ABAI(Association for Behavior Analysis International)会員。日本行動分析学会会員。米国のビジネス界で大きな成果を上げる行動分析を基にしたマネジメント手法を日本人に適したものに独自にアレンジ、「行動科学マネジメント」として確立。行動分析に基づいた「パフォーマンス・マネジメント」を日本企業に導入するためのコンサルティングに取り組んでいる。支援企業・団体は数十人〜数万人規模の組織まで多岐にわたる。趣味はトライアスロン&マラソン。著書にロングセラー『教える技術』シリーズ(かんき出版)、『短期間で社員が育つ「行動の教科書」』『8割の「できない人」が「できる人」に変わる! 行動科学マネジメント入門』(ダイヤモンド社)など多数。
──石田さんは大手グローバル企業から中小まで、さまざまな規模、業種の会社の現場をご覧になっていますが、最近、マネジメントに関して特に顕著な問題って、ありますか?
石田 そうですね、ちょっと意外と思われるかもしれませんが……「上司が部下を叱れない」という問題が、多くの企業で見られますね。
──叱れない、のですか?
石田 そうです。「どうやったら(部下を)うまく叱ることができるんでしょう?」という相談もかなり寄せられます。たとえば部下が望ましくない行動をした際に注意しようと話しかけても、「何すか?」という感じで鬱陶しがられる……。それが怖いというか嫌で、部下とはなるべく接触しないというマネジャーが多いんですね。
これが社員数の少ない中小企業ならば、もう経営者=社長自身の問題です。社長が自分の会社の社員を「叱る」「注意する」ことができない、という。
──社員を叱れないって……それはかなり切実な問題ですよね。
石田 特に20代、30代の若手社員に対しては「どうせ若い世代とは価値観が違うから、強く言っても無駄だろう」という思いもあるのでしょう。
また、これは非常に大きなポイントなのですが、部下をあまり強く叱責すると「すぐ辞めてしまう」という懸念もあるのです。人材不足のこの時代においては、「社員が辞めてしまう」ということは企業にとってはものすごい痛手ですから、経営者はここに神経質になりますよね。大手企業でいえば、何かあればすぐに「パワハラだ!」ということで社内が騒然となりがちです。マネジャーはそれが怖くて部下を注意できない、ということもあります。
──いろいろと怖い、ということですね。でも、「叱る」ことが必要な場面だって当然あるはずですが……。
石田 もちろんです。ただ、多くのリーダー、マネジャーが「部下を叱ることの目的」を見誤っているように感じますね。
なぜ部下を叱らなければならないかといえば、それは「望ましくない行動」を止めさせるために他なりません。「望ましくない行動」とは、要するに「成果に結びつかない行動」ということです。
たとえば、成果を出すためにはこれだけの仕事量をこなさなければならないということが検証によってわかったとして、それを怠っていたときには、叱らなければなりません。ルール違反をすることで成果が出せないということであれば、それも叱るべきです。でも、多くのリーダー、マネジャーは、相手(部下)の「行動」ではなく、「内面」にフォーカスしてしまうんですよね。
──「内面」というと?
石田 たとえば「もっとやる気を出せ」とか「気合を入れろ」とか、「真剣に取り組め」とか……。これって、相手の人間性を否定することにつながるんです。相手は人間性を否定されれば、それは傷つきますよね。そこで問題が起きるんです。
──叱るときは、内面ではなく行動にフォーカスしなければならない、と。
石田 そういうことです。「部下を変えたい」「部下を成長させたい」という要望はよくあるんですが、そもそも「部下を変える」「成長させる」って、どういうことかといえば、それは「部下がより成果を挙げるようになる」ということでしょう。これがリーダー、マネジャーの役目です。
──「人間的に成長させる」とか思ったりしがちですけど……。
石田 それは職場におけるマネジャーの役割ではありません。私が提唱する行動科学マネジメントは「(相手の)行動にフォーカスする」ことを基本概念としているので、「相手の気持ちを考えない」だとか「部下をロボットのように扱うのか?」などと思われることもありますが、相手の内面=人間性にズカズカと踏み込んで人格を変えようとすることのほうが、よっぽど相手の気持ちを考えていないマネジメントですよね。
──たしかに。
石田 誤解を恐れずにいえば、ビジネスにおけるマネジメントでは「人間教育」は必要ないんです。それを勘違いしてしまうから、上司は一生懸命「人格者」になろうと努力したりする。部下に「人生訓」を説こうとする。しかしそれは必要ないんですよね。
ビジネスにおいて部下が求めているものは、「どうすれば成果を挙げられるか」ということ。上司はそれを教え、サポートすればいいんです。「叱る」ということも、その一環で考えなければいけません。
──とはいっても、やはり「信頼できない上司」からは、叱られることは嫌だと思うんですよ、部下としても。「お前に言われたくないよ」って感じで……。
石田 それはその通りです。信頼関係のない上司・部下の関係では、叱ることも、逆に「ほめる」ことも、あまり効果はないでしょうね。
──じゃあ、どうすれば部下との信頼関係が築けますか? やはり「飲みニケーション」とかで腹を割って話す、とか?
石田 わざわざそんなことをする必要はありません。ずばり言ってしまえば、職場で、毎日、1分でも部下と話す機会を持てばいい。
──それだけですか?
石田 「それだけでいいんですか?」「そんなことはできていますよ」という反応は多くの社長さん、リーダー、マネジャーからもらいますが、実際には「毎日1分、話す」ということもできていないことが非常に多いものです。
私の新刊『1分ミーティング』(石田淳著 すばる舎刊)でも詳しくお話ししていますが、信頼関係の構築は部下との対面接触の回数に左右されます。対面接触といっても2つの種類があり、ひとつは「業務上の進捗管理を目的とした接触」。そしてもうひとつが「部下の育成を目的とした接触」です。「職場で部下と1分話す」ことを「そんなことはできていますよ」という人は、たいてい「業務上の進捗管理を目的とした接触」しか行っていません。
──「部下の育成を目的とした接触」はどのようなものなんですか?
石田 簡単に言ってしまえば、部下がどこでつまずいているかを観察して特定し、つまずきを解消する具体的なやり方を教える、ということです。月一回のミーティング、ヒアリングなどをするよりも、毎日接触することが観察になります。それは1分あればいい、ということなんです。
──毎日1分のミーティングで信頼関係を構築できれば、部下を叱ることも怖くはないですね。
石田 信頼関係を築きつつ、相手の内面にはフォーカスしない、ということです。逆にいえば、相手の内面をどうにかしようとしなくても、信頼関係は築くことができるということです。
──なるほど。本日はどうもありがとうございました。
【文責:編集部】