「障がい者のための自立支援施設=グループホームが足りない」
……この日本が抱える大きな課題をご存じでしたでしょうか?
「数が足りない」ことはすなわち「ニーズがたくさん」ということ。社会福祉をあらためて「ビジネス」として捉えることで、日本の未来はより良いものになるかもしれない……。今回はコンテンツプロデュース業とともに2017年より障がい者支援施設であるグループホームの運営という福祉事業に挑戦する今野洋氏にお話をうかがいました。
今野洋
2003年、新卒で不動産系ブラック企業に入社。毎日300件の飛び込み電話を富裕層にひたすら掛け続ける。2007年、生命保険業界に飛び込み、生保の訪問販売にチャレンジ。苦しみの末1年後に月間売上500%アップ、業界平均の約4倍を達成。2008年、キーストーンフィナンシャル株式会社(現しごとのプロ出版)の創業に参画。IT素人ながらパソコンスクールで学生に混じって学びながらネット販売に挑戦。現在までの累計売上は10億円に迫る。現在、プロデュース業の他、OTR株式会社代表取締役として福祉事業でも活躍中。
──今野さんが今やってらっしゃる福祉ビジネスのかたちを、簡単にご説明していただきたいのですが。
今野 私が経営しているのは「OTR株式会社」という、「Over The Rainbow(虹の彼方へ)」の頭文字を取った社名の会社です。何をやっているところかといえば、知的あるいは精神障がい者の方の自立支援をするグループホームを運営しています。
──「グループホーム」というのは?
今野 わかりやすく言ってしまえば、障がい者の方のシェアハウスといった感じですね。障がい者の方はどうしても一人暮らしをするのが難しいですよね。そこで、自立をしたい、でも受け入れ先がない……という障がい者の方を身の回りのお世話をしながらサポートするという施設です。
障がい者の方は日本全体で約800万人いらっしゃるといいます。これは人口の約6%ほどですね。そのなかで、私たちのグループホームが対象としてる知的、精神障がい者の方は、そのうちの約半分、400万人ほどになります。さらにこの400万人のうち、グループホームに入っている方は、約40万人。10%ほどでしかないんです。障がい者の多くの方たちは自立を目指してグループホームに入りたいという思いがあるのですが、施設の数が全然足りない。
──つまり需要に対して、供給が全然追いついていないということですね。
今野 そう、それが業界の……というより、日本社会の課題ともいえますね。
──たしかに、国として放っておけない大問題ですよね。
今野 だから現在、国としてもグループホームの運営は強力に推進しています。私たちもその流れに乗って事業を進めているわけです。言い方は悪いかもしれませんが、私たちの請求先は「国」ということになります。
──正直、グループホームというものの存在はあまり身近には感じられないのですが。
今野 もちろんグループホームというものは昔からあったものですが、これまでは地方、郊外のほうで運営されることが常でした。それが、現在の「絶対的に施設数が足りない」という問題や、全国の「空き家問題」を解消する手段の一つとして、地域密着型の、小型のグループホームを国が推進しているんです。
──なるほど。新たに施設を建設するのではなく、空き家等をそのまま利用するということですか。
今野 そうです。障がい者の方に地域生活を送ってもらうということがグループホームの趣旨ですので、普通の家で、普通に地域に溶け込むようにしています。うちでいえば、現在、千葉県の佐倉市で5棟のグループホームを運営中でが、各棟に4人ずつの利用者さんがいる、という状況ですね。
──各グループホーム運営にはどのようなスタッフが必要なんですか?
今野 まずはグループホームの運営を統括する管理者。それに障がい者の方の自立支援をサポートするサービス管理責任者という国家資格保有者が必要です。そして障がい者の方の生活のお世話をする世話人。これらがそろえば運営することができます。
──「ビジネス」として捉えるならば、圧倒的なニーズが確実に存在するビジネスだといえますね。
今野 この現状はもちろん決して好ましいことではないのですが、ビジネスとすれば確かに大きなニーズがあるものです。そういう観点でいえば、日本は少子高齢化でさまざまなマーケットが縮小していきますが、そんななかで今後も応えるべきニーズが常にある、希有な業界ではないでしょうか。
──ビジネスでありつつ、日本の社会課題の解決に直結するわけですね。
今野 はい。障がい者の方の親御さんも「自分がいなくなった後はこの子はどうするんだろう」という思いが強くあるでしょうし、親御さんご自身も体力に不安が出てくる。障がい者の方ご自身だけでなく、さまざまな方の悩みを解消できることだと自負しています。
「自立支援」ということは、要するに最終的には障がい者の方が一人で生活できるようにサポートしていくことです。一人で生活していくためには、社会の中でコミュニケーションをとっていく必要がある。その練習の場としても、グループホームは貢献できていると思っています。
──「福祉」というと、何かビジネスとは距離のあるイメージ、「稼ぐ」ことは度外視したようなイメージがついて回ると思うのですが。
今野 私は、そのイメージこそが福祉の大きなブレーキというか、ハードルになっていると思うんです。「福祉は自己犠牲を伴うもの」「奉仕の精神で行うもの」……それでは、誰も福祉事業に参入しません。ひいては社会課題は何も解決しないままです。「自己犠牲を前提としない社会貢献」が実現できていれば、もっといい世の中になるんじゃないかな、と。
「自己犠牲を前提としない社会貢献」。
次回はその意味についてさらに詳しく今野氏にお話をうかがいます。