「物体を回転させて眺める能力を身につければ、人生が変わる!」……そう言われても「いったい何のこと?」と思われるでしょう。でも、この本を読めば、その驚くべきパワーがよくわかるはずです。
(徳本昌大氏のブログ「毎日90秒でワクワクな人生をつくる」掲載文を再編集)
地球の生物は、厳しい自然界を生き抜くために、様々な生存戦略を工夫しています。ヒトが採用した生存戦略の最大の利器はメンタルローテーションではないでしょうか。頭の中でクルリと回転させることで、他人に親切になり、自分も成長し、不老長寿にもちょっぴり近づく。なんとも巧妙にして省エネ。ヒトは実に効率のよい生存戦略を手にしたと言えます。メンタルローテーションはヒトの成長の駆動力、いわば人生のアクセルです。(池谷裕二)
池谷裕二氏の『メンタルローテーション “回転(ローテーション)脳”を鍛える』を読了しました。
「メンタルローテーション」とは、「頭の中で自由に物体を回転させて眺める能力のこと」です。著者の池谷氏はこの能力を身につけることで、人生をより良くできると述べています。
メンタルローテーションが上手な人ほどIQが高いことがわかっています。実は、IQテストに空間物体問題が含まれているため、ここで得点を取ることでIQを高くできるのです。IQはメンタルローテーションの能力が反映されるように設計されているのです。
アメリカの心理学者アール・ハントは、「知能の本質について」と題した論説の中で、ヒトの知能を大きく「空間系」と「言語系」の2つに大別しています。そして、「空間系」の要素として、ずばりメンタルローテーションを挙げています。
スタンフォード大学の心理学者、シェーファー博士とメツラー博士が1971年に発表した論文によって、メンタルローテーションの重要性が認識されました。 博士らは、二つの物体の角度の差を0度から180度まで様々に変えて出題し、実験参加者が答えるのにどのくらいの時間を要するかを計測しました。
当然、角度の差が大きくなるほど解答までに時間はかかります。その差が大きくなれば、それだけ判断が難しくなるのは当然のことです。 しかし、このデータが意外だったのは、角度差と解答に要する時間がほぼ直線の関係にあったことです。
このことから、私たちは心の中で物体を「回転」させていることがわかります。メリーゴーランドのように一定の速度で回転すれば、角度差と時間は直線関係になります。脳(メンタル)の中で物体をゆっくりと回転(ローテーション)させることで、実際の物体をイメージしているのです。このメンタルローテーションの能力を高めることが、空間系の知能を伸ばすことにつながるのです。
本書の中には、この能力を鍛えるための超初級→初級→中級→上級の計128問が掲載されています。いくつになってもこの能力は鍛えられるという著者の言葉を信じて、頭の体操をしてみました。子供の頃のテストを思い出しながら、図形を頭の中をくるくる回すことで、いつもは使わない脳番地を使え、脳を活性化できました。
立体思考は「垂直思考」 と 「水平思考」の2つに大別されます。
☆「垂直思考」=一つの問題を徹底的に深く掘り下げて考えてゆく能力
☆「水平思考」=同じ現象を様々な角度から眺めたり、
別々の問題に共通項を見出したり、手持ちの手段を発展的に応用する能力
この2つの能力もメンタルローテーションを鍛えることで、伸ばせることがわかっています。
垂直思考と水平思考には「視点の移動」という共通項があります。つまり、どちらもメンタルローテーションから派生した能力です。実際、メンタルローテーションの能力は、論理力や算術力や問題解決力とよく相関します。
垂直思考も水平思考もビジネスに欠かせない重要な能力です。一つの問題を徹底的に掘り下げたり、問題の解決方法を異なる問題に転用する能力を伸ばすことで、他者から頼られる存在になれます。
そして〝ユーモア〟も、話題の時空フレームを柔軟に変える能力と捉えると、メンタルローテーションが役立つことがわかります。広く世間で言われる「頭のよさ」や「知恵」は、メンタルローテーションが源泉になっているわけです。
専門用語では、自分の立ち位置から外部を眺める視点を「エゴセントリック」、外部から自分の立ち位置を見る視点を「アロセントリック」といいます。アロセントリックはメンタルローテーションがあって初めて実現します。実際、メンタルローテーションは、相手がものごとをどう捉え、どうした行動を取るかを、他人の立場になって相手の心の動きを考える能力を生み出します。
メンタルローテンションの能力を進化させれば、気遣いや共感力も鍛えられ、人間関係を改善できます。 さらに重要なことに、そうした他者の心理分析の視線を、あえて自分自身に向けることで、自分の特性を客観的に分析できるようになります。
自分を冷静に眺める能力は、「私の長所はこれだ」と気づく自己評価力や、「私の短所はこれだ」と反省する自己修復力を強化します。自分の姿を正しく捉えることで、私たちは成長できるのです。「自己分析力」を手に入れたければ、メンタルローテーションの能力を伸ばすべきです。
脳の中で立体をぐるぐると回し、視覚的にイメージすることで、私たちは進化してきました。私たちが高度な集団社会を築き、科学技術を発達させることができたのもメンタルローテーションのおかげなだと池谷氏は指摘します。
メンタルローテーションの能力を鍛えることで、自分を客観視でき、コミュニティの中で信頼される存在になれます。メンタルローテーションによって、IQだけでなくEQも高められるのです。
「子供の時にこの立体を回す能力をもっと鍛えていればよかった」というのが、私の読後の感想です。今からでも遅くないと信じ、本書に紹介されている問題を時々やってみようと思います。
複数の広告会社でコミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、取締役や顧問として活躍中。インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO/Iot、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役/みらいチャレンジ ファウンダー他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。
サードプレイス・ラボのアドバイザーとして勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
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