「地域づくり」を語るうえで最近よく話題になるようになってきた「SDGs」。しかしその本質や、それによってもたらされるものについては、多くの人はまだなかなか正しい理解がされておらず、どこか「身近なものではない」ように思われているのではないでしょうか。今回ご紹介する本は、SDGsを真に「自分ごと」として考えるきっかけになるはずです。
(徳本昌大氏のブログ「毎日90秒でワクワクな人生をつくる」掲載文を再編集)
目次
持続可能な開発目標(SDGs)とは、すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真です。貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指します。SDGsの目標は相互に関連しています。誰一人置き去りにしないために、2030年までに各目標・ターゲットを達成することが重要です。(国際連合のHP)
SDGsは、Sustainable Development Goalsの頭文字から取られたもので、直訳すれば「持続可能な開発目標」という意味です。
このSDGsを経営に取り入れることは、欧米では当たり前になってきています。しかし日本では、ようやく話題になることが増えてきているとはいえ、まだまだ理解不足といえるえでしょう。
SDGsの示す「目標」とは一体何なのでしょうか?
2015年の国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の中にこの目標が書かれています。
SDGsはこれら17の目標と169のターゲットで構成され、国家や政府でなく、企業も2030年までに達成するように求められています。これらは誰かに命令されるのではなく、自主的に動くものです。
SDGsの話題=地球規模の話になりがちで、「自分ごと」とするのが難しくなります。SDGsとの距離を縮めたいと思った私は、amazonで書籍を探し、今回ご紹介する『持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』に出会いました。 著者の筧裕介氏は、ソーシャルデザインの専門家ですが、「SDGsは地域の課題を解決できる強力なツール」だと述べています。
SDGsとは、持続可能な地域を実現するために活用可能な強力なツールであり、その考え方は人口減少、高齢化、経済衰退などの様々な課題を抱える地域が、まさに今必要としているものである。(筧裕介)
SDGsという視点を持つことで、課題発見、課題解決能力を養えるようになるのです。
本書から、まずSDGsの5つの基礎知識を学びましょう。
SDGsは地球全体の、世界共通の目標であり、途上国支援や格差是正のためのものではなく、全ての国がその対象に含まれます。また、日本全体の目標というだけではなく、都道府県レベル、市区町村レベルという地域の目標でもあるのです。
SDGsは人類共通の目標であり、国連が責任を負っているものでも、政治家や学者が中心のものでも、国や自治体主導のものでもありません。民間企業にとっては、目標達成への貢献が求められると同時に、新しい事業機会を生み出すイノベーションの種にもなるのです。市民の生活と未来に関連するものであり、市民一人ひとりが主役となり達成に向けて行動することが求められます。
SDGsの大切な理念が「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」です。先進国の犠牲になりがちな途上国、環境への配慮の陰で見過ごされがちな貧困層、画一的なルールや社会常識の犠牲になりがちな社会的弱者を重視することを明言しています。国内においても、経済と人口が集中する大都市圏だけでなく、人口数百人、数十人規模の町村や集落、そこで暮らす人々を誰一人取り残さないことを意味します。
増えつつある生活保護世帯、社会保障から取り残されている隠れた貧困層、社会環境の変化に伴い増えつつある発達障害や精神障害の方々など、社会的弱者と呼ばれる方が暮らしやすい社会を実現することは地域にとって、大切なテーマなのです。
人生100年時代を迎え、医療が進化した日本で暮らすこと、それは大きな疾病や障害を抱えながら生き続ける可能性が高いことも意味する。自分自身がガンや認知症を患うことも、親の介護で仕事ができない状況になることも人ごとではない。誰もがマイノリティになり得る面を持っており、いつ身体的・精神的・経済的な厳しさを抱えるかわからない時代を生きているのだ。
そんな私たちにとって、「誰一人取り残さない」社会を実現することは、誰か他人のためではなく、自分のために大切なのです。
SDGsは17のゴールで構成されています。気候変動などの環境問題、途上国の貧困問題だけでなく、社会福祉領域のゴールも多数含まれています。
目標の期限は2030年に設定されています。17ゴール169ターゲットで描かれているのは、2030年に目指すべき理想的な姿、目標である。今年や来年の短期的な話ではなく、約10年かけて達成を目指す中長期の活動です。
2030年に向けて、持続可能な地球、SDGsのアプローチは3つあると著者の筧氏は述べています。
月30万の収入しかないのに、50万円を使う生活を続けることは不可能です。普通の人であれば、この状態を何とか打開しようとするはずですが、今の地球もこの借金生活者と同じような状態です。人類が豊かになったことで、地球の生態系の恵みである自然資源を、人間が許容量以上に使用し、過去の遺産をどんどん食いつぶしています。
今の地球は、再生可能エネルギーへの代替や省エネで負荷を下げるだけでは難しく、イノベーションを起こすことが目標達成に欠かせません。スリム化とイノベーション、この2つにより、収入(生み出す価値)と支出(環境負荷)をイーブンにすること、将来のために収入(価値)が支出(負荷)を上回る状態にすることが求められています。経営者がSDGsについて考えることで、ビジネスのヒントが見つかり、イノベーションを起こせるようになるわけです。
SDGsの目標は便宜的に17に分けられていますが、それらは互いに密接に関連しています。実は、気候変動と世界平和は、一見無関係に見える2つの問題がつながっています。1つのゴールを達成するためには、他の目標とのつながりを考えなければならないのです。
あるゴールの達成のための行動が他のゴールを阻害することもあれば、逆に他の複数のゴールに好影響を与えることもあります。例えば、海の観光振興で、海洋レジャー建設の話があがった場合には、メリットだけでなく、デメリットも生まれます。地域に多くの雇用を生み、地域経済を活性化する可能性が高まります。しかし、豊かな海の汚染や基幹産業である漁業の衰退(9産業と技術)、廃棄物(12生産と消費)も危惧されます。
そんな状況に対して、アプローチ次第で分断と協働の2つのシナリオが考えられます。
分断シナリオ
海洋レジャー事業者が、漁業関係者が、地元商店・ホテルが、行政が、それぞれが自分の利益や目的の達成を優先する行動をとると、互いの利害関係が衝突し、誰かが利益を得たら、誰かが不利益を被る事態が生じます。事業者の力が強くなり、彼らの利益を最大化するような開発が行われた場合には観光客は増加します。しかし、その影響で海洋が汚染され、漁業の衰退はますます進みます。ゴミは増え、生活環境は悪化することも予想されます。
レジャー施設内で食事や買い物が完結し、レジャー事業者だけが儲かり、観光客の恩恵を地元が得られず、住民からは反発の声が上がることでしょう。地元の協力が得られなかったり、海産物が提供できないなどの負の影響が続くと、海洋レジャー施設としての魅力を損ない、開業当初は観光客が多数確保できたとしても、次第に競争力を失い、他の地域との競争に破れてしまいます。地域には、古びた施設と汚れた海が残り、ますます衰退が進んでしまうのです。
協働シナリオ
関係者が対話し、地域全体が目指す姿、各自の生活や事業の目的を共有し、ともに達成することを目指して協働するシナリオを採用すれば結果は異なります。大人数収容の環境負荷の高いリゾートではなく、ごみゼロ、クリーンエネルギーで海の生態系に影響を与えない小規模リゾートを開発し、地元産の海の幸や農作物を活用した料理を振る舞うようにするのです。地元住民と協働した観光コンテンツを開発・運営することで、環境共生型レジャーとしての評価が高まり、地域に新たな雇用も生乱せます。結果的に、地域全体が活性化し、関係者みんなが利益を得るのです。
自分の目標が地域全体の目標とつながっていることを意識し、ともに達成することを目指すのが、自分の目標達成にも結果的には近道なのだ。そのための思考の枠組み、地域全体の共通言語となるのがSDGsなのだ。
17のゴールは互いに密接につながっていることをしっかりと覚えておきましょう。地域を構成する各プレーヤーが地域全体のゴール、他者のゴールを意識しながら、自分のゴール達成を目指すことが求められるのです。
分断を越え、関係者が共に成果を得るためのSDGsのアプローチが「バックキャスティング」です。
バックキャスティングとは、未来の理想的な姿、ゴール像を描き、その実現に向けて、やるべき活動を大胆に考える未来思考のアプローチである。その逆がフォアキャ未来予測のアプローチである。
先ほどの「30万円の収入」で考えてみましょう。フォアキャステイングの場合、現在の支出と収入の見直しから始めます。小遣いを1万円減らす、外食の回数を減らす、残業を増やす……。これらの積み上げで収入と支出のギャップで20万円を埋めるのは、なかなか難しそうです。
これに対してバックキャスティングの場合は、まず生活の未来像を描きます。その実現のために長期的に生活を変えていきます。たとえば「海の近くで、家族みんなでサーフインを楽しむ生活」を実現させるという長期の視点を持つと、働き方や住まいの場所は、家や車はどうするかなど、自分の生活の優先順位や今やるべきことがはっきりするため、生活を大きく見直し、困難な目標を達成できる可能性が広がります。
バックキャスティングのアプローチでは、この地域がどうなっているとみんなが幸せだろうかと考えてみることから始めます。その結果、「ごみゼロ、化石エネルギーゼロの環境共生型リゾート」「地元漁師、地元農家が供給する地産地消レストラン」「地元住民ガイドによる海洋生活体験」など、みんなにとって望ましい姿が描けるでしょう。
SDGsのゴールである2030年の地域の未来の絵を描いた上で、その実現のために各自で、みんなでできること、やるべきことを企画し、実行します。バックキャスティングのアプローチによって、地域内の分断を超えられるようになるのです。
著者はここまでの話を整理し、SDGsを次のように定義しました。
SDGs(持続可能な開発目標)とは、住民、事業者、行政職員など、地域内外の様々なステークホルダーが自分の立場・領域を超えて、ともに幸せな地域の未来の姿を描き、その実現に向けて、みんなで協働して取り組むチャレンジ。
本書を読み進めると、気候変動とテロのように、一見無関係な出来事同士でも実は根底ではつながっていることに気づけます。私たちの行動は周囲の人の行動に間違いなく影響を与えています。一人一人の小さな行動の積み重ねが様々な影響をもたらし、我々が暮らす地域の、そして地球の未来をつくっているのです。
もちろん、ひとりが普段の小さな行動を変えても、大きな未来を変えることはできない。しかし、大きな未来を変えることを目指し、みんなが対話し、協働し、それぞれが自分の行動を少しずつ変えられれば、未来は大きく変わるはずだ。
地球規模での実現は難しくても、自分が暮らす地域であれば、すぐに始められることがあると著者は指摘します。持続可能な地域をつくるSDGsの活動は、一人ひとりの考え方と行動を変えることから始まります。SDGsを自分には関係ないと思うのをやめ、「自分こと」として17の目標を意識するようにしましょう。
複数の広告会社でコミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、取締役や顧問として活躍中。インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO/Iot、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役/みらいチャレンジ ファウンダー他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。
サードプレイス・ラボのアドバイザーとして勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
https://tokumoto.jp/