この記事は、経営者自身も含めて、働く人たちのうつ病を予防するためにはどうすればいいのかとお考えの経営者の皆様に向けて書いています。
「経営者と社員のためのうつ病予防① 経営者と社員のうつ予防は会社の業績を上げる」
「経営者と社員のためのうつ病予防② うつ病の正体を知っておこう」
今回はうつ病に陥るまでの「過程」についてお話ししていきます。
今から90年近く前に「動物がストレスにさらされ続けたらどうなるか」ということを明らかにした研究者がいます。カナダの生理学者ハンス・セリエです。
彼の研究によって、ストレスに長期間さらされ続けたネズミはやがて死に至る、ということが分かりました。
同じ動物である人間も、このような末路をたどることは想像に難くないです。現実問題として、心臓発作や脳血管障害などを引き起こして、突然死を引き起こすことがあります。
うつ病は、このような結果になる前に、身体の活動を制限して突然死から身を守るための防御反応である、と私は考えているのです。
前回もお話ししましたが、野生生物の場合、大きなストレスを感じるのは天敵に襲われたときです。天敵に襲われた場合、戦うか逃げるかのどちらかしかありません。
そして、戦うにしても逃げるにしても、比較的短時間で決着がついてしまいます。
したがって、野生生物の場合は、「長期間にわたってストレス受け続ける」とういう事態に陥ることはほとんどないと考えられます。
セリエ博士は、実験用のネズミに長期間にわたってストレスを与え続けた場合、どのようなどのような変化がみられるのかを実験で確かめました。
すると、下図のように、ストレスに対する抵抗力が変化することを突き止めました。
これをストレス曲線と言います。
(出典:京都府ホームページhttp://www.pref.kyoto.jp/health/health/health09_b.html)
セリエ博士は、この曲線から、ストレスにさらされている生体の状況を三つの期間に分けて説明しています。
警告反応期は、さらにショック期と反ショック期に分けることでき、ストレスを感じる状況に陥った瞬間の短期的な反応です。
抵抗期は、ストレスに対して必死で抵抗をしている状況です。
交感神経が優位に立ち、心拍数が上がり、血圧が上がり、身体に力がみなぎっている状態です。
何とかこの過酷な状況に対して、抗おうとしているのです。
ところが、この状況は長く続くことはなく、やがて心拍数も落ち、血圧も下がり、急速に弱っていきます。そして、ついには死んでしまうのです。
セリエ博士は、当初は、ネズミはストレスフルな過酷な状況に適応して強くなっていくのではないかと予想していたのですが、予想に反して最終的にネズミが死んでしまうことに大きな驚きを覚えたそうです。
私はかつてうつ状態に陥ったことがあります。
それをきっかけに会社を辞めて、整体の世界に飛び込みました。
整体の世界に飛び込んで、身体のことを学ぶようになってから、この曲線の存在を知りました。
そして、私は思いました。
「当時、この曲線を知っていればうつ状態になる前に手を打つことができたかもしれない。」と。
抵抗期にある時というのは、身体の中にエネルギーを感じています。
苦しいのは苦しいのですが、負けてなるものか、頑張るぞ、という、どちらかというと前向きな気分で、充実感すら覚えるのです。
しかし、そういう状態も長期間続くと、身体に異変が出てくるようになります。
私の場合は、急にお腹が痛くなって、ご飯がまともに食べられないようになり、そこから急速に体調がおかしくなりました。
つまり、この曲線で言うところの「疲はい期」に入ったのです。
この曲線からわかることは、抵抗期にあるうちに何らかの対策をとることで、疲はい期に入ること、すなわち何らかの症状が出てくるのを防ぐことができるということです。
しかし、先ほども述べたように、この抵抗期にいる間はある種の充実感と高揚感を感じるので、多くの人は「まだ、大丈夫」とは「このまま頑張れるのではないか」と考えがちで、何らかの手を打つのが遅れてしまいます。
この曲線の存在を知っていれば、自分が抵抗期にいることを自覚し、やがて疲はい期がやってくることを予見できるので、早めに対策を講じることができます。
身体が動かなくなってから手を打とうと思ってももうすでに手遅れになってしまいます。
うつ状態に陥れば、生産性はがっくりと落ちますし、ひどい時には数か月もの休業を余儀なくされるかもしれません。
そのうえ、何年も苦しむかもしれません。
抵抗期にいることが自覚できれば、早めの対策をとることができるのです。
ここで多くの人が疑問に思うのが、この抵抗期はどれくらい続くのか、ということだと思います。
もしその期間が解っていれば、対策をとる場合にとても都合がいいからです。
しかし、残念ながら、この期間がどれくらい続くのかを予測することはできません。
なぜなら、それは個人の年齢や体質、ものの考え方や捉え方、仕事以外のプライベート事情、仕事のハードさなど、個々のケースによって全く違うからです。
ですから、例えば同じような状況でAさんが3か月大丈夫だったからと言って、Bさんも3か月は大丈夫だ、とは言い切れないのです。
本人の努力とは関係なく、生まれ持った体質なども影響することから、他人と比較することはできません。
したがって、パワハラ上司が、「俺の若いころはもっと大変だった」といくらハッパをかけたところで、その部下も同じことができるとは限らないのです。
これは、体質的にお酒に強い人と弱い人がいるのと同じなのです。
お酒を飲めない人に、「俺と同じ量を飲め」と強要することができないように、ストレスに関する耐性も人それぞれであることを知っておく必要があります。
抵抗期がどの程度続くのかを予想することは困難なので、できるだけ早く対処するしかないということなのです。
長期間にわたりストレスを受け続けると、一時期は頑張って抵抗をするものの、やがては活力が低下し、病気になったり突然死をしたりします。
その事実は、80年前からすでに明らかにされています。
ストレスは確実に身体を蝕んで行きますので、過剰なストレスを感じたら、早めに対処することが大切です。
トレーナー、整体師、産業カウンセラー
ナショナル整体学院スポーツトレーナー科卒業
一般社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー
株式会社BBコンディショニング代表取締役
33歳の時、うつ病を発症し8年勤めた会社を退社。経営者の健康問題が、会社経営においてリスクになるという考えから、経営者に対するコンディショニングサービスを展開する、株式会社BBコンディショニングを設立。経営者と従業員の健康づくりに関するコンサルティングに力を入れている。
著書『うつ病を出さない環境づくりが会社の業績を上げる』
ブログ「スタイリッシュエイジング」
一般社団法人 日本産業カウンセラー協会