小原恒之弁護士に訊く「M&A」の真実。「合併と買収」といえば、日本人にとってはネガティブなイメージが先行するだろう。しかし「自分が育ててきた会社が、商品資産としての価値を持つ」ことに多くの経営者が気づき、M&Aが活性化すれば、それは日本の未来にとっても喜ばしいことでもあるのだ……。
大坪:僕も創業者オーナー経営者なんですけども、僕から見たら「事業承継」ってすごく現実感がないんですよ。
例えばうちはとりあえずセガレいますけど、そのセガレが「自分の会社を継ぐ」っていうリアリティーがどうしても湧かないんですよ(笑)
小原:なるほど。
大坪:そういう人(社長)って、多いんじゃないかと思うんですよね。だって、「お前! 継げ!」って言われる方もかわいそうだし、適性の問題だってありますもんね。だから「自分の子どもだから会社を継がせる」っていうのは、全然イメージ湧かないんですけども。
そうすると、そこでマネタイズするというか、「キャッシュをつくる」という「M&A」という方法は、ものすごく希望だなと思うんですよね。
小原:いや、それは素晴らしいです。今そうやってM&Aを、ご自分とご家族のために活用するというような発想をお持ちの社長さんって、実はそんなにまだ多くないと思うんです。
大坪:ふーん、なるほど。
小原:というのも、まだ「M&A」っていう言葉、考え方自体が、まだあまり一般的に知られてなくて。10年、20年ぐらい前から、ごく一部の狭い界隈で、ビジネス用語として認知されていたけれど。
大坪:はい、積極的にビジネス書を読むような人にはね。
小原:一般の方たちの口に上るようになったのは、最近のことですね。
私も相続・事業承継をずっとやらせていただいてきている中で、やっぱりお子さん、お孫さん、社長の身内に継いでいただくっていうことが原則がある。でも中には、お子さんがいらっしゃらないとか、あるいはいても継ぎたくないっていうケースもある。そうなるとただもう会社潰してしまうのはもったいないですし。特に地方なんかの場合、地元の雇用にも直結しますので。それはもう社長自身のためにもならないし、社会のためにもならない。じゃあどうしたらいいか? その解決手段としてM&Aというものがあるわけですね。
ご存じのようにM&Aは「合併と買収」という意味です。「合併」とか「買収」とか聞くと、いわゆる「ハゲタカ」というか、欧米的な競争社会の、ものすごくシビアなもの……会社をだまし取ったりとか………。
大坪:そういうイメージ、ありますよね。
小原:合併とか買収っていうと、そういうネガティブなイメージなりますよね。でも要するに、「会社と資産を売ってお金に換える」……平たく言うとそういうことです。
会社を引き継いでくれる人がいない、その場合に会社としての資産を他に売って、その会社の価値を理解してくれる投資家さんであったり、他の企業さんだったりに買ってもらって、ご自分はその会社を売ったお金で老後の蓄えをしたりとか、人によってはまた新たに会社を興すこともできるかもしれませんけど。
大坪:そうですよね。
小原:「自分が育ててきた会社が、商品資産としての価値を持つ」ということに、最近段々気付いてくる方が増えてきています。
大坪:本当ですよね。そこなんですけど、今廃業する会社が増えてきてるじゃないですか。
でもその廃業する会社は、実はすごく自分のところに大きな資産価値があって、「買いたい」と言う人が実はごまんといる可能性だってありますもんね。本当にもったいない。
小原:実は私が以前お手伝いさせていただいた、地方のメーカーさんがあって、お気の毒なことに、業績が段々下っていって、売りたくても、帳簿上はもう真っ赤っかなんですね。ところがそこは、ある特許を持っていたんです。それをある大手企業さんに評価していただけて……。帳簿上真っ赤にもかかわらず、資産価値はものすごく大きい。そこをちゃんと正当に評価していただいたので、結構な価格で買ってもらったんです。
大坪:なるほど、そういうことがあり得るわけですよね。実は他所から見たら、ものすごい「宝の山」があるというケースも。
小原:そうです、そうです。
大坪:特に今、人手不足じゃないですか。人がいること自体、メチャメチャ価値があったりしますからね。
小原:そうですね。人がいないと回らない事業というのは本当に、人、従業員がちゃんと会社に忠誠心を持って勤務してくれて、しかも労務管理がきちっとできている……そういう実績があれば、いくら数字上真っ赤でも、そこの「人」という資源がものすごい宝になります。
大坪:ある意味、事業を続けること自体、今の日本社会にとって善と言うか……。
小原:はい、そのとおりですね。
大坪:もしもこれから大廃業時代と言われていて、それが実際起こっちゃったら、たぶん日本のGDPの何割か消えちゃうわけじゃないですか。だから「事業を続ける」という手段として、M&A、すごく良い!
それに、もっと若い世代からしたら、今アメリカもそうですけども、会社を興して、IPO、上場させるっていう選択肢もある。M&A前提。最初からGoogleとかFacebookに買ってもらうみたいな、そういった出口もありますね。
小原:アメリカは日本と完全にベクトルが反対を向いていますよね。
大坪:いや、日本もこれから増えつつあると思いますよ。あとは、シリアルアントレプレナーというか、いったん事業を壊して、売却してキャッシュが入って、それを元手にしてまた新しい事業を興すというような、新しい生き方もあったりしますからね。
小原:はい。
大坪:今までは、人生をかけて一つの会社を興して、それを子々孫々まで継がすみたいな感覚だと思うんですけど。
小原:自分が起業して育てた会社ですとか、ご先祖から引継ぐ会社ですとか、そういった会社というものに対して、自分やご家族が「やらなきゃならない」っていう執着が、もうアメリカの企業家ってあんまりないですよね。
言葉は悪いかもしれませんけど、お金を生む資産として会社を創り出して、それを育ててどんどん価値を大きくしていって、価値が最大化したところで売ってお金を得て、そのお金でまたもっと大きな会社を創る、というやり方ですね。
大坪:僕はその考え方がすごくしっくりくるんですよね。言ってみれば会社なんて〝入れ物〟だし。大事なのは、そこに「いろんな夢が乗っかっている」っていうところで。一つの世界観と言うか、夢を乗せて、哲学を表現して、それを実現したものが会社なわけだから。別にそれで一生涯縛るとか、子々孫々まで縛るとかいうのは、僕としてはナンセンスだと思うんですね。
小原:そういう合理的なお考えを持った企業家さんが、日本でも徐々に増えてきていますよ。それに伴って、以前はごく狭い業界の界隈でしか使われてなかった「M&A」っていう言葉が、段々一般化してきているわけです。
大坪:そうですよね。だけどその一方で……だからこそっていうことがあります。それは社員のこと。社員の思いはまた別の問題で。あんまり簡単に「M&A」とか言うと、社員が「ちょ、ちょっと待って、僕ら売られちゃうの?」みたいな……。
小原:(笑)そうですね。
大坪:実際、変な雰囲気になったりっていうことがありますよね。
小原:そうすると、「社長はその社員のこと、人間のことを商品の一部としか見てないのか」ってことになりますからね。
大坪:そうそう。もちろん本当はそうじゃないんだけど。
例えばM&Aして、上場会社に売られたとするじゃないですか。そうすると上場会社の基準に給料も合うわけだから、実はハッピーになるというケースも多々あるんだけど、なかなかそこまでは思い至ってくれない。だからまあ、経営者としては、その意図を密かに隠してみたいなね。
小原:そうです、そこは隠さないといけないですね。
大坪:運営上の注意はありますよね。
小原:実際M&Aもいろんな形態がありますから、本当に会社、業務、知的財産、社員さん、丸ごと買い取っていただいて、要は「経営者が変わるだけ」っていうケースが理想的なんでしょうけど。
大坪:なるほど。じゃあ、どうしたら良いですか、僕ら経営者は。
小原:要するに、社長さんが頑張って「健全な経営」をしていけば、(会社を)買う側も、人、物、資源も一体となった会社としての価値を評価しますから。
大坪:じゃあ僕ら経営者としては、トータルとしての会社の価値を高めて、良い買い手さんが来て、しかも条件を揃えて、社員さんもハッピーになるようにする、と。
その有効な相談相手が、小原先生であり、M&Aの専門家という感じですかね。
小原:はい、そうですね。
大坪:わかりました。今回はどうもありがとうございました。勉強になりました!
◆小原恒之(おばら・ちかゆき)
弁護士法人リーガルスピリット代表弁護士
合同会社リーガルスピリット代表(グループホーム
「ブライトサイド」運営)
◆聞き手 大坪勇二(しごとのプロ出版代表)
1964年 長崎県生まれ
九州大学卒
コンテンツプロデューサー
「稼ぐプロを作るプロ」
大企業新日鉄の経理マンに飽き、ソニー生命の歩合営業マンに転身するも2年間ダメで貯金が底をつき、身重の妻と月11万円の住宅ローンを抱えて、手取り月収が1,655円とドン底の時にやる気スイッチオン。
6ヶ月間の「大量行動」で富裕層とのパイプが開け法人超大型契約で手取り月収が1,850万円に。現役11年間で累計323億円の金融商品を一人で販売。
その後、「社会の問題を、仕事のプロを育てることで解決する」をモットーに出版社を設立。現在に至る。障がい者福祉事業、複数の社団法人オーナーでもある。
著書に『手取り1655円が1850万円になった営業マンが明かす月収1万倍仕事術』(ダイヤモンド社)『月収1850万円を稼いだ勉強法 ~伝説の営業マンはどう学び何を実践したのか~』(祥伝社)などがある。