『持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』(筧裕介著 英治出版)の書評に基づき、地域の未来を左右するSDGs(Sustainable Development Goals)の在り方と効用について、さらに深く見ていきましょう。
(徳本昌大氏のブログ「毎日90秒でワクワクな人生をつくる」掲載文を再編集)
目次
住民同士がつながり、豊かなコミュニテイが生まれることは、持続可能な地域の実現にとっても、地域で暮らす住民個人にとっても、多くの効果・効能(結果の質)がある。(筧裕介)
筧裕介氏は『持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン』の中で〝SDGsを達成するためには、良質なコミュニティが不可欠である〟と述べています。
そして様々な研究結果から、人と人がつながること、地域に強いコミュニティが存在することによって、5つの効果が得られることがわかっています。
1.幸福度を高める
2.生命力を高める
3.生産性・創造性を高める
4.利他性を高める
5.経済的利益を生む
マサチューセッツ工科大学のダニエル・キムは組織を成功させるための「成功の循環モデル」を提唱します。組織としての結果の質を高めるためには、まず「関係性の質」を高めるべきだとダニエル・キムは説いています。関係性の質を高めた組織では、メンバーがよりよいアイデアを出し合い、お互いを認め合うことで、「思考の質」を高められます。その結果、「行動の質」が高まり、「結果の質」もアップします。結果が出ることで、更に「関係性の質」が高まり、好循環が生まれるようになるのです。
私たちはたいがいの場合、「地縁型」と「テーマ型」の2つのコミュニティに属しています。
同じ地域に住むことで生まれる「地域の縁」でつながるコミュニティです。町内会や子ども会などが代表的ですが、都市化が進めば進むほど、縁が薄くなり、都市部では自治会の加入率の低下が問題になるなど、多くの地域で問題を抱えています。会社や学校などのコミュニティは業務・学習内容という「テーマ型」の要素もあるものの、「縁」をベースにしたものということで、地縁型としてとらえます。
SNSの進化により、自分と興味関心が近い仲間やコミュニティと物理的な距離を超えて会える機会が爆発的に増え、個人が属するコミュニティの数は増えていいます。人が自由に複数のコミュニティを行き来しながら、一つに依存することなく、様々なコミュニティに参加できるようになりました。
そして、今、地域に新たなコミュニティが求められています。それが「タスクフォース型」のコミュニティです。
地域に必要なのは、地縁型とテーマ型の2つが融合した、ある特定の地域課題解決のために集まるタスクフォース型コミュニティである。「タスクフォース」とはもともとは軍事用語で、特定課題に取り組むための特別チームを意味する。地縁型のように地域に深くコミットするのだが、テーマ型のように出入りも比較的自由であり、義務的なものではない。
自分がサーフィンを楽しむ海岸のビーチクリーンの活動、ガーデニング好きが集まる中央公園の植栽チーム、子育ての悩み共有の会、認知症の当事者が集う会などなど、自分の得意な領域、関連する領域のコミュニティに参加することは、多くの人にとってハードルが低くなります。
また、障害のある子どもを育てる方、認知症のある人、LGBTなど、辛い経験や苦しい病気などに悩む人が、近隣に暮らす同じ境遇の当事者と出会い、つながることで救われます。まちづくり領域だけでなく、福祉の領域でも、こうしたタスクフォース型のコミュニティが増えており、その重要性が高まっています。コミュニティの中で、関係性の質を高めることで、人間関係をより良いものにできるのです。
最初は自分の興味関心でタスクフォース型コミュニティに参加したとしても、コミュニティ内で様々な方と知り合うことで、自然と地縁型コミュニティとのつながりも深まることになります。地域と縁が薄い移住者や若い人にとっては、タスクフォース型コミュニティに参加することで、地縁型コミュニティに加われます。SGDsを意識し、地域の課題に興味を持つことで、人々とのつながりを強化でき、やがてそれらの課題を解決できるようになるのです。
地縁型コミュニティを強化・再生するタスクフォース型コミュニティをつくるためには、次の3つの技術が必要だと筧氏は言います。
他者との言葉のやり取りを通じて、互いの関係を深め、思いを共有し、ともに活動する原動力を生み出すことが求められます。一からタスクフォース型コミュニティをつくるためには、そのタスク(地域の特定課題)に関連する様々な深い思いを共有するための場づくりが必要不可欠になります。
参加してもらいたい人の話を丁寧に聴く機会を持つことも重要です。一人ひとり丁寧に話を聴くことで、その人の思いを理解することができ、あなたとの関係が築かれ、タスクフォースに参加してもらえる可能性が高まります。
自分自身、家族や仲間、自然環境、地域社会、日本、世界各地で起きている事象同士の関係性、つながり、互いの影響を示した大きな地図を描く技術が、コミュニティを活性化します。自分と自分の周りの小さな世界だけを見ていては、そのタスクの背景や深い構造、根本的な原因を見逃してしまいます。多様な価値観のメンバーがーつのタスク達成に向けて行動するためには、参加者同士の目に見えないつながりの構造を理解し、適切に対処する必要があります。
コミュニティのレベは3段階あり、対話を通じて、コミュニティは徐々に進化を遂げていきます。
多くの住民が自分の毎日の生活に直接関係しない地域の課題を自分から切り離し、傍観します。例えば、認知症の方の俳徊が問題になっている場合、「家族は何やってるんだ」「いい迷惑だ。しっかり鍵をかけて閉じ込めておけ」といった発言が出ます。難解な問題であればあるほど、当事者が少ない問題であればあるほど、こうした態度をとる住民が増えます。
課題に対して、ある程度主体的に解決しようと試みる態度がこのレベル2です。「可哀想だから、みんなで見守ろうよ」「認知症は大切な問題だから、勉強会を開催しよう」といった発言が出るようになります。対話を重ねることで、このレベルの人が増え、タスクフォース型コミュニティが形成されていきます。ただし、地域が抱えている課題に外から取り組むという、他人ごとのスタンスの人が多い段階です。特に、行政職員、医療・介護・福祉関係者、教員などは、専門家として、少し引いた客観的な立場や上からの立場で「問題に対処する」「助ける」「支援する」というスタンスになりがちです。
レベル3では、課題を自分ごととして、自分自身が当事者であるというスタンスで取り組めるようになります。「認知症はいずれ自分に関係する問題だ」「自分が安心して暮らすためにも、見守りのネットワークが必要だ」といった発言が出ます。ただ、この場合、身内に認知症のある方がいると比較的容易ですが、縁遠い課題では、自分ごととして捉えることはできません。
自分の偏見や思い込みは捨て、当事者や家族の方との丁寧な対話を通じて、街で暮らす障害者や認知症の方の生活、思いや行動を自分の未来の姿と重ね合わせながら、考える必要があります。困難な課題の場合は「対話の場をつくる技術」に加えて、「地図を描く技術」や「声を聴く技術」が役立ちます。
地域で起きている事象や課題に自分が含まれている、自分も当事者であると認識し、自分の行動と地域全体の活動を見直し、次の行動を自ら主体的にとれる人が増えれば増えるほど、地域はコミュニティのカを高めていきます。
強いコミュニティを生みだすためには、課題に対する住民の対話の場が欠かせません。SDGsの意識を多くの人が持ち、互いを認め合い、未来からの発想で課題を解決する姿勢が、人とのつながりを強化します。そして関係性の質を高めることで、地域の様々な問題をクリアできるようになるのです。
「タスクフォース型」のコミュニティ……これからの時代に重要なキーワードです。
複数の広告会社でコミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、取締役や顧問として活躍中。インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO/Iot、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役/みらいチャレンジ ファウンダー他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。
サードプレイス・ラボのアドバイザーとして勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
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