『実録!ASEAN M&A インドネシア編)』で少しご紹介しましたが、インドネシアでのM&Aにはさまざまな注意点があります。これらの注意点は、インドネシアに限らず諸外国でも同様でしょう。海外M&Aだけでなく、日本国内のM&Aにおける注意点とも共通点は多いと思います。今回は、M&Aの素人の私がインドネシアのM&Aに関わることになった経緯をご紹介します。
はじめてM&A案件に関わることになったのは、インドネシアの銀行M&Aがきっかけでした。出資先のインドネシア企業から「金融事業を発展させたい。インドネシア国内で買える銀行はないか? 」という相談をされたのがはじまりですが、雑談のような会話からそうなったと記憶しています。
M&Aの経験はありませんでしたし、ましてや海外、それも銀行のM&Aなんて正直わけがわかりませんでした。とりあえず、インドネシアのツテと調査会社数社に打診を始め、3行ほど売り情報を得ることができました。しかし、ブローカーが多い世界です。オーナーと直接接点を持てた売り手企業候補は、3行中0でした。
日本国内のM&Aの場合、NDAを結べば会社名も判明することがほとんどですが、インドネシアでは着手金(交渉をスタートさせる意思表示として)を支払わないと会社名すらわかりません。そして多くの場合、着手金を支払うとブローカーと音信不通になるわけです。「そんなの詐欺じゃないか! 」と思うでしょう。はい。詐欺です。しかし、それが日常的に起こるのが海外です。普通は「裁判をして、着手金を取り戻すべきだ! 」となりますよね。それをしたいところなのですが、ほとんどの場合、外国人は勝てません。裁判をしても、儲かるのは弁護士と賄賂を受け取る裁判官だけです。
売り手の銀行名も不明。
着手金を支払わない限り、交渉が進まない。
ブローカーに騙されているかもしれない。
裁判をしても勝てない。
そんな状況のなか、はじめてのM&A案件はスタートしました。ブローカーを介して、「譲渡金額」「支払いスケジュール」「各資料の提出のタイミング」「株式譲渡のタイミング」「リストラ計画」などを話し合いました。かなり具体的な話になってきたので、ブローカーが「本当に買う気があるようだ」と認識したのか、売り手企業からも「この人材は残してあげてほしい」など、具体的な話が出てくるようになります。
そこで「そろそろ銀行名を教えてほしい」とブローカーに相談してみたのですが、「それはできない」の一点張りで、なかなか折れてくれません。「まぁ仕方ないか」と思い、途中からそれはあきらめたのですが、ブローカーから転送されてきたメールに、オーナーと思われる名前と電話番号が残っていました。電話番号を検索してみると、現地では有名な企業名が。ホームページを調べてみると、銀行も経営していました。そんなラッキーにより、銀行名が判明。それをブローカーに指摘すると、すぐにオーナーと商談することができました。これによって、着手金詐欺ではないことがわかりました。
オーナーとの商談後は、担当者宛のメールに、オーナーとブローカー、買い手企業の担当者をCCに入れて話を進めました。ブローカーによる妙な調整(自分に都合の良い調整)がありませんので、話はサクサク進み、「いよいよ契約」という話になりました。しかし、予想外のことが起こります。銀行の売却理由は、「資金難と本業への集中」と聞いていたのですが、その銀行がパプアニューギニアの銀行に押収されてしまったのです。どうやら、売り手企業はパプアニューギニアの銀行から数千億円の融資を受けており、その返済が滞っていたようです。
思いもしない理由で、はじめてのM&A案件は終了してしまいました。しかし、この経験により多くの教訓を得ることができたと思います。そして銀行M&Aに関わったことで、なぜかM&Aの情報が集まるようにもなりました。
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の会社の顧問・経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
マイナビニュースでは、仮想通貨に関する記事を連載中。
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