「商品・サービスに自信あり! だから顧客にもっと商品のことを知ってもらいたい」との思いから、商品説明に注力する企業は多くあります。しかし、顧客が本当に知りたいこと、求めている情報とは、それではなく……。
(徳本昌大氏のブログ「毎日90秒でワクワクな人生をつくる」掲載文を再編集)
物語は音楽に似ている。優れた物語は一連の偶発的な出来事を”整理”して、ものごとの本質を見せる。映画の公開版がファイナルカット(編集済み最終版)と呼ばれるのには理由がある。映画は劇場公開に至るまでに何度も繰り返し編集され、省略され、変更され、削除される。ときには、撮影済みの登場人物が完成版から削除されることもある。物語の作り手は「雑音」を取り除く必要があるからだ。物語の筋に関係ない登場人物や場面は削除しなくてはならない。私はマーケティングに雑多な情報を加えようとするクライアントがいると、自分が映画の脚本家になったと想像してもらう。(ドナルド・ミラー)(本書より引用)
ドナルド・ミラーは、企業も消費者に向けて「自社のストーリー」をシンプルに語るべきだといいます。しかし多くの企業は雑音(自分たちが発信する雑多な情報)が人々の興味を引くと信じて、不要な情報をいくつも届けることで消費者を混乱させています。
消費者を動かすためにはブランドをわかりやすく語ることがポイントになります。そのために、不要なメッセージを徹底的に削ぎ、シンプルにしましょう。
ブランド戦略の本質は、何度も繰り返せる、簡潔で、消費者の関心を引くメッセージを作り、商品やサービスを人々の意識に浸透させることである。(本書より引用)
これに気づいたのが、アップルのスティーブ・ジョブズです。
ジョブズはアップルを解雇された後、ピクサーという物語作りの天才集団とともに働くことで、ストーリーの重要性を発見します。ピクサー以前のスティーブは他の企業と同様にメーカーメッセージを顧客に届けるだけでした。1983年にアップルが発売したコンピュータ、Lisa(リサ)はジョブズが同社から追い出される前に手がけたプロジェクトでした。Lisaの発売当時、ジョブズは『ニューヨーク・タイムズ』紙に9ページの広告を掲載しましたが、そこにはマニアックで小難しい説明が書かれていました。このコンピュータは、消費者には理解されず、ほとんど売れない失敗作になったのです。
その後、アップルに戻ったジョブズは顧客中心主義を経営の柱に置き、メッセージも説得力のあるシンプルなものに変えました。新しい広告キャンペーンのスローガンを「ThinkDtfferent.」の2語に変え、顧客に届ける情報を選別したのです。簡潔で消費者の関心を引くメッセージを発信するようになったアップルは、ほとんどの広告で商品そのもの(コンピュータ)を取り上げるのをやめました。消費者は皆、現実世界の主人公であり、自分自身の物語から力を得ていると理解することで、アップルのコミュニケーションはストーリー型にシフトしました。
ジョブズが「物語」を通して情報を選別するようになったとき、アップルは急成長を遂げることとなります。
人々が買うのは、「最高の商品」ではなく、「一番わかりやすい商品」なのです。アップルは他のどのIT企業よりも上手に、消費者の物語に自社製品を組み込むことに成功しました。
私たちは物語の作り手が使うのと同じ枠組みを、消費者の物語を作るために使う。そして、自社の商品を消費者の人生の7つの要素に関連づけ、自分たちを導き手として位置づけるのだ。それによって、私たちは消費者が問題を克服し、望みどおりの人生を生きるのを助ける役割を担う者となる。ストーリーブランド・フレームワークにおける重要な発想の転換のひとつは、物語の主人公は商品やサービスではなく、消費者だということだ。消費者を主人公とし、自社を導き手として位置づけると、消費者が問題を克服するための頼れる手段として記憶されるようになる。消費者を物語の主人公として位置づけることはお客様に対する姿勢としてふさわしいだけでなく、ビジネスを成長させる上でも効果的だ。(本書より引用)
ストーリー・マーケティングには以下の7つの要素が欠かせません。
企業は顧客という主人公が、次の3つの問いに答えられるようにすべきです。
■主人公は何を求めているのか?
■主人公が望みを叶えるのを妨げているのは誰(または何)か?
■望みを叶えた(または望みが叶わなかった)場合、主人公はどうなるのか?
対象となる消費者を特定したら、その消費者が商品やサービスに対して何を求めているのかを考えましょう。主人公が何を望むのかを決め、商品を発見する旅を始めるのです。企業が消費者の望むものを特定できなければ、消費者はその物語を読むことはありません。
消費者は問題を抱えており、課題を解決したいと考え、情報を検索しています。顧客は企業の助けを必要としているのです。企業が消費者の直面する問題を語ると、その企業が提供するあらゆる商品に対する関心が高まります。しかし、ほとんどの企業は消費者が抱える問題には3つのレベルがあることを知りません。
物語では、主人公が外的問題、内的問題、哲学的問題に遭遇します。人間が日々の生活で直面する課題はこの3つに分類されます。ほとんどの企業は外的問題に対する解決策を売ろうとしていますが、実際の消費者の動機はむしろ内的問題を解決することにあるのです。内的問題を解決したい顧客は企業のストーリーの関心を寄せてくれます。
人は成功を収めるための導き手(メンター)を求めています。自社を主人公として語る企業は、そうと知らずに見込み客と張り合ってしまいます。すべての人は朝、目覚めたとき、自分を主人公として世界を見ています。どんな人でも、世界を眺めるときには、自分を中心に置くものです。そのため、企業が主人公として登場すると、消費者との距離は縮まりません。顧客は主人公を探すのではなく、メンターを探していると捉え、ストーリーを作りましょう。
特に商品やサービスが高価である場合、購入には大きな決断が伴います。そのため、消費者は企業と取引をする上で混乱のないわかりやすい道筋を求めます。物語の導き手は主人公に計画(または目的を達成するための情報や段階的目標)を授けますが、企業もこれと同じようにすべきです。
人間は物語に促されて、行動を起こします。消費者が具体的な行動を促すきっかけを用意していない企業は驚くほど多いとドナルド・ミラーは言います。わかりやすい行動喚起なしに、商品やサービスに人を引き寄せることはできません。 購入や予約を促さない限り、消費者はただ眺めているだけで行動を起こしてくれません。課題のある顧客は適切なきっかけさえ与えれば、商品やサービスを購入してくれるようになります。
商品を購入するかどうかを決める際、危機にさらされているものが何もないとすれば、顧客はその商品を買う気になりません。消費者が商品やサービスを購入「しない」場合に何を失うのかをはっきり示すのです。80年代のアメリカでハンバーガーチェーンのウェンディーズは「Where ls the beef?(肉はどこにいったの?)」というキャンペーンを実施しました。競合チェーンは肉の量が少ないというメッセージによって、ウェンディーズは顧客を獲得しました。高級自然食品を扱うホールフーズは添加物の多い加工食品を摂取し続ける危険を避けて健康を維持するという選択肢を示すことで、自社のブランドを確立したのです。物語にはこのような顧客の「危機」を提示することも必要なのです。
企業は商品やサービスを購入した場合の変化のイメージを消費者に伝える必要があります。
元米国大統領のロナルド・レーガンは「丘の上に輝く町」という理想像を語り、ビル・クリントンは「21世紀への架け橋」を築こうと提案しました。減量法を提案するウェイトウォッチャーズはダイエット成功者の喜びを語り、紳士服を販売するメンズ・ウェアハウスはスマートな見た目を約束しました。結果をコミットしたり、達成のイメージを顧客に示し、顧客にとっての「理想の未来」を明らかにしましょう。
ストーリーブランド・フレームワークの7つの要素を使い、顧客に語りかけることで、商品やサービスを購入する人が増えます。わかりやすいシンプルなストーリーによって、課題の解決をしたい顧客との関係を築けるようになるのです。
ストーリーブランド・フレームワークは、7つの普遍的な物語要素で構成される枠組みです。 このフレームワークを活用すると 商品やサービスについての伝え方が変わり、売り方そのものが変わるのです。
「ストーリー」によって成功を納めたさまざまな事例が満載。そしてそれらの基本的な考え方は、自社にも当てはめることができるはずです。売上アップに悩む社長さんはぜひご一読をおすすめします。
複数の広告会社でコミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、取締役や顧問として活躍中。インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO/Iot、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役/みらいチャレンジ ファウンダー他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。
サードプレイス・ラボのアドバイザーとして勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
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