「今の自分をより良く変えたい…」そんな思いで一生懸命、自己成長のために時間を費やす毎日。「色んな人に会い、自己啓発本を読み、成功法則を学んできた。なのに、一向に変わっている気がしない。」そんなことはありませんか?
もしかするとそれは、本当のあなたを見えなくしてしまう「スコトーマ」があるからなのかもしれません。
コーチングでは「スコトーマ」はとても重要な概念です。「スコトーマとはなにか」「スコトーマの原理によってどういったことが起こるのか」「スコトーマ現象」の例…などについてご紹介したいと思います。
目次
スコトーマとは、ギリシャ語で「盲点」のことを指します。もともとは眼科の医学用語で、健康な人でも人間の目の構造上、どうしても見えない暗点のことを表現する言葉です。
心理学者の研究で“心理的にも盲点が存在するはずだ”という観点から、コーチングでは、この眼科の医学用語を心理学用語に応用するようになりました。それがコーチングにおける「スコトーマ」=「心理的盲点」です。
なぜスコトーマが生まれるのでしょう?あなたはビジネス本などで「脳は90パーセント以上使われていない…」という言葉を耳にしたことはありませんか?パーセンテージはまだ不明なままですが、少なくともおよそ1割程度も使われていないと言われています。
人間の身体部位の中で、最もエネルギーを使うと言われているのが「脳」です。もし、脳がフル稼働したとすると、人間は死んでしまうとまで言われています。人間の脳は、他の動物に比べるとレベルが違うほどの進化を遂げました。しかし、消化器官においては、あまり進化はしていません。例えば豚と人間の胃腸はほとんど変わりません。ですので、人間の消化器官は、脳がフル稼働でエネルギーを使ったとしても、そもそもそれほどのエネルギーを供給することが出来ないのです。もしもなんらかの手段を使って無理に供給しようものなら、死んでしまうと言われています。
こういった人間の進化の過程で発明したものが「スコトーマの原理」になります。スコトーマとは、心理的盲点のこと。言い換えると、人間の脳は“自分たちが長く生きていくために、重要なもの以外は見えないようにするという方法を無意識に学んできた”ということです。
実は、私たちの脳は知っているものはもう見ようとしないのです。知っているものを見ないというのは、例えば、「初対面の人と挨拶をして一度でもその人の顔を見ると、次からは毎日会っていても脳は二度とその人の顔を見てはいない」ということです。「見た気になっているだけ」なのです。
もっと言うと、人間の脳には、重要度が高いものしか見えなくさせるという特徴があります。“自分がそのときに重要だと感じたものしか認識すらしない”というクセがあるのです。
人は誰しもが、見たいと思っている景色を見ているものです。
食に興味がある人は、街中の飲食店ばかりが目につき、車を買いたいと思っている人は、走っている車を目で追いかけます。
つまり脳が関心があるものだけを認識し、選別して見ているのです。
お腹が減っていたり食に興味がある人は、街中にあるタバコの自販機なんかは見えていませんし、すごく車が欲しい人はバイクが見えていません。
タバコの自販機やバイクが、“視界の中には入っていても、その人たちの脳では認識がされていない”のです。
スコトーマ現象を説明する上で、ひとつ例え話を紹介したいと思います。
あなたがこれまで腕時計に興味が無かったとします。それが、ある異業種交流会で、たまたまとても経営もうまくいっていて、人間的にも魅力的な社長と出会いました。その社長と話していてふと腕元を見ると、とてもゴージャスな時計をしていました。
「素敵な時計ですね」
「素敵な時計ですね」
と尋ねると「あ、これね、まぁ良くあるロレックスだよ」と返されました。>あなたにはそのロレックスがとても素敵なモノに映ります。それから段々と、ロレックスを購入したくなってきました。
そうして毎日を過ごしていると、会う人・すれ違う人の腕元ばかりを注目してしまいます。そうすると、やけにロレックスをしている人が多いように感じてきます。そのうち、「世の中の人はみんな腕時計をしていて、中でもロレックスが多いな」などと思うようになりました。ほんの少し前まで、腕時計自体に興味すらなかったはずなのに……。
(以上囲み)
これがスコトーマ現象の一例です。
今回は「腕時計」を例にとりましたが、モノは人それぞれで変わったとしても、このようなことは良く考えると結構あるのではないでしょうか?脳の仕組みなのであって当然です。この逆もまた同じです。つまり「自分にとって重要だと感じないものを勝手に遮断してしまう」。これもスコトーマ現象の特徴です。
では実際のコーチングにおいては、スコトーマはどのように扱われるでしょうか。
これも事例で見ていきましょう。
ある日相談に訪れたのは、50代の会社員Tさん。大手企業の部長さんです。
部長Tさん:「ある日、急に社長に呼び出されまして、これからは残業をなるべく減らしていきたいと言われたんです。国の方針などいろんなことを加味してだと思うんですが」
コーチ:「昔と違って今の時代、どこの会社もそのような流れになりつつあるようですね」
部長Tさん:「ええ。それからはなるべく部下には早く帰れと言っています」
コーチ:「Tさんも早く帰られてるんですか?」
部長Tさん:「いえ、部長という立場上、部下よりも先に帰ることはできないと思っているので、一番最後まで残っています」
コーチ:「そうなんですか、部下の皆さんは早く帰られてるんですか?」
部長Tさん:「そこが問題というか、悩みでして、部下が残業をやめてくれないんです。定時で上がっていいと言ってはいるのですが・・・」
コーチ:「なるほど、ではこういうのはどうでしょうか。Tさんご自身が率先して定時上がりをするのです」
部長Tさん:「(やや不安げだったが)わかりました。やってみます」
その日のセッションはそんな話で終わりました。
次のセッションで部長Tさんに結果をお聞きしました。
コーチ:「どうでしたか?」
部長Tさん:「それが、うまくいったんです。どうやら、私が帰らないから、部下たちは帰れなかったようでした」
コーチ:「良かったですね。あなたは部長という自分の立場で物事を考えていたんですね。相手を動かしたければ相手の立場で物事を考える必要があったんです」
部長Tさん:「ええ、確かに。上司のくせに先に帰るなんてと思われないか?という不安や責任感から、部長なんだから先に帰るわけにはいかないという先入観がありました・・・」
今では残業をする部下は1人も居なくなったそうです。
この話には、2つのスコトーマがありました。
1つ目は部長のスコトーマ。自分の立場で考えてしまい、相手(部下)の考えが盲点になっていました。そして、部長という単なる役職から自分の思い込みで、「部長という立場なのだから、部下よりも先に帰ることはできない。部下の分も私が頑張らねば」と、自らの行動を勝手に制限していたのです。
2つ目のスコトーマは、部下です。「部長より先に帰るなんて失礼だ」「口では定時で上がっていいからねと言ってはいるが、不快に思うに違いない」と、勝手に思い込んでいました。部下は部長に期待されたいが故に無理をして残業をしていたに違いありません。
ちなみに今回はあえてわかりやすくご紹介しましたが、実際のコーチングではここまで具体的な言葉にしないケースが多いです。コーチングの重要な点は“クライアントが自分自身で気づきを得ること”ですので、詳しくお話を伺ったりヒントとなる言葉がけはしますがストレートに解決策を言葉にすることはあまりないでしょう。
では、スコトーマを外すにはどうしたら良いのか。ここからはスコトーマの外し方についてご説明します。
この部長Tさんの場合は、「抽象度をあげる」という必要がありました。抽象度というのは、コーチング用語で「高い視点で俯瞰するように考える」こと。つまり、“部長や平社員という役職の会社員”→“一人の会社員”→“一人の日本人男性”と抽象度を上げていきます。そうすることによって、細かなこだわりやプライドが消えて、スコトーマが外れるようになります。
もう1つのスコトーマの外す方法としては、コンフォートゾーンを広げることです。コンフォートゾーンを広げるためには、いつもとは違う行動をすることが必要で、この場合では部長Tさんにいつもと違う行動の定時上がりをするように促しました。定時上がりをすることにより、残業をして遅くまで残るというコンフォートゾーンが少し広がり、新たな気づきや新たな思考がスコトーマを外しやすくするのです。
今回の事例では、上司と部下の2人のスコトーマ現象についてご紹介しました。スコトーマは誰しも持っているものなので、このように同時に互いのスコトーマでお互いにうまくいかない事があります。でも逆に、片方のスコトーマが外れれば、もう片方のスコトーマも外れやすくなります。その結果お互いが加速的にうまくいき、両方の問題解決事が一気に出来ることもあるのです。
スコトーマはどんな人にも必ず存在しています。自分のことなので気がつかないだけのです。それ自体は悪いことではありません。しかし、スコトーマが外れた瞬間に得られる「アハ体験」のような気づきは、これまでの行動を変えるとても良いきっかけになります。自分のスコトーマを外し、他人のスコトーマをも外してあげられるようになってください。それを続けていく事で、お互い相乗効果で成長することが出来ます。抽象度をあげ、コンフォートゾーンを広げることにより、自分自身と他人の両方のスコトーマを外すのです。普段の生活の中では難しければ、抽象度の高いコーチと対話することです。きっとスコトーマが外れる瞬間を得られるはずです。それを普段の人間関係に応用してみてください。
【文責:編集部】