こちらの記事(『社長なら必ず知っておきたい「スモールM&A」という選択肢』)でご紹介した、「M&A(エムアンドエー)」という選択肢。後継者問題に悩む社長さんにとっても、成長戦略を描く社長さんにとっても、M&Aが有望な選択肢であることがおわかりいただけたと思います。
では、M&Aは実際にどのようなステップで行われるのでしょうか? 専門用語も多く出てきますが、極力わかりやすく解説していきます。
目次
今回は、売り手(譲渡側)に立った場合のM&Aのステップについてみていきます。細かく分けると、そのステップは11あるとされます。
もちろん、すべてのM&Aで全工程が必須というわけではありません。スモールM&Aの場合、省略できることもあるでしょう。社長であれば、ご自身が売り手・買い手のどちらになる可能性もありますから、M&Aの一般的な手順を知っておいて損はないと思います。
M&Aの仲介専門会社は数多くありますが、M&A会社に依頼する前にやるべきことがあります。まずは、事前準備が必要です。少なくとも、以下の点についてはよく検討しておくことが望ましいでしょう。
M&Aが本当に自社にとって良い選択肢なのかは、まず考えたい点です。本当に他に選択肢はないのか、冷静に考えてみると良いでしょう。腹を割って本音で話せる相手がいれば、その人に相談してみるのも良いかもしれません。また、議決権を確保できているかもM&Aを検討する際に確認しておきたいポイントです。
M&Aで売り手と買い手の間に入るアドバイザーは、「M&Aアドバイザー」「M&Aアドバイザリー」「フィナンシャルアドバイザー」などと呼ばれています。ここではわかりやすく「M&Aアドバイザー」と呼びます。M&Aを専門としているアドバイザーもいますが、コンサルティングの一環としてM&Aに関するアドバイスを行っているアドバイザーもいます。M&Aを専門としているコンサルティング会社や仲介会社もその役割を担っていますが、必ずしもM&A会社に依頼しなければいけないという決まりはありません。M&Aを成功させるためには、「本音を言える」ということが案外重要です。人と人ですので、相性も大切になってくるでしょう。
次のステップは、買い手候補の選定とアプローチです。買い手となり得る候補企業のリストを作成します。同業他社が最もシンプルで想像しやすい買い手候補になりますが、もちろんそれに限定することはありません。
など、買い手企業のメリット・ベネフィットを考えながら候補先を選定すると良いでしょう。そこから、条件に合いそうな候補先を数社に絞り込んでいきます。
買い手候補の選定が終わったら、匿名の企業概要(ノンネムシート)を作成して買い手候補の会社に提示・打診します。ノンネムシートには、事業内容や売上高、年間利益、売却理由などを記載するのが一般的です。譲渡希望金額は決まっていない場合は「要相談」としても良いでしょう。
打診した買い手候補企業のなかから、買収に興味を示す企業が現れたら、次のステップに進みます。ノンネムシートよりさらに詳細な情報の開示を求められた場合は、秘密保持契約を結びましょう。
秘密保持契約は、NDA(Non-disclosure agreement)と呼ばれることもあれば、CA(Confidentiality Agreement)と呼ばれることもありますが、基本的に同じものです。
M&Aは、売り手にとっても買い手にとっても神経を使います。売り情報が社員さんや株主、取引先などのステイクホルダーに漏れることは避けなければいけません。秘密保持契約が結ばれると、会社の名前や財務状況などが初めて開示されますので、情報管理が極めて重要になります。
秘密保持契約が締結されると、次のステップは企業概要書の提示です。企業概要書は、「IM(Information Memorandum)」とも呼ばれています。企業の詳細情報を買い手候補企業に提示し、買収を検討してもらいます。ノンネムシートとは違い、企業概要書は会社名や詳細な事業内容、財務情報が記載された書類です。定款や登記簿、決算書なども含まれます。
企業概要書を見たうえで、買い手候補が具体的に買収を検討する段階になると、トップ(社長)同士の面談が行われます。社長ではなく、「社長と事業責任者」の面談になることもありますし、財務責任者などが同席する場合もあります。
なお、ステップ5の企業概要書の提示とステップ6の顔合わせ会談は、順序が逆になることもあります。
このステップは、必須というわけではありません。買い手に買収の意思がある、あるいは売り手に売却の意思があるという表明文のようなものです。基本合意書は、「MOU(Memorandum of Understanding)」と呼ばれることもあれば、「LOI(Letter of Intent)」と呼ばれることもあります。基本合意書ではなく、意向表明書と表現されることもあります。内容は以下のとおりです。
顔合わせ会談後、または基本合意後に、買い手企業は売り手企業の実態を把握するためにデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスは、「デューデリ」「DD」などと呼ばれることもあります。一言でいえば「詳細調査」のことです。
具体的には、買い手企業が専門家に依頼し、その専門家が売り手会社を訪問して帳簿を閲覧したり、書面ではわからない会社の状況などを面談等でチェックしたりします。一般的には、「事業デューデリジェンス」や公認会計士が行う「財務デューデリジェンス」があります。他に、弁護士が行う「法務デューデリジェンス」や、対象企業によっては「技術デューデリジェンス」などもあります。財務デューデリジェンスは公認会計士、法務デューデリジェンスは弁護士といった専門士業が担うケースが多いですが、技術デューデリジェンスはエンジニア・プログラマーが行います。
すべてのデューデリジェンスが必須というわけではなく、買い手企業が必要に応じて行います。
デューデリジェンスの結果、買い手企業の買収の意向に変更がなければ、条件交渉のステップに進みます。経営者や役員、従業員の処遇、最終契約までのスケジュール、遵守すべき事項、守秘義務などに関する合意事項について固めていきます。場合によっては、リストラ計画などを作成することもあります。細かい条件を詰め、最終的な譲渡価格を決定します。
条件交渉が完了したら、最終契約のステップです。譲渡の内容(株式譲渡や事業譲渡など)、売買価格を定めた最終契約書を取り交わします。株式譲渡であれば、株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement=SPA)を交わします。
売り手企業は、買い手企業から譲渡代金を受け取ります。譲渡代金は、一括で支払われることもあれば、条件交渉次第では何度かに分けて支払われることもあります。
最終契約が終わればそれでM&Aは完了、というわけではありません。最終契約後には統合作業という工程があり、この統合作業がM&Aの総仕上げです。統合作業は、「PMI(Post Merger Integration)」と呼ばれています。
ステップ6ではトップ同士の会談、あるいは事業責任者等との会談が行われましたが、統合作業では従業員同士の接点が生まれてきます。つまり、買い手企業のスタッフが売り手企業の現状を理解していく段階です。M&A成立後は、買い手企業から売り手企業に数人常駐し、事業の流れや既存スタッフの特徴などを把握し、ノウハウを共有していくことが重要です。
などを行っていきます。トップ同士だけではなく、現場のスタッフ同士がお互い信頼できる相手であると確認し合うことが一番の目的です。M&Aは成立したらそれで終わりではなく、事業承継のひとつの形ですから、末永い関係構築が重要です。
2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の会社の顧問・経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
マイナビニュースでは、仮想通貨に関する記事を連載中。
https://news.mynavi.jp/series/cryptocurrency
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