あなたが一番自分らしくいられる場所はどこでしょうか?
あなたが一番リラックスできる居心地良い空間はどこですか?
自分の部屋が一番の人もいれば職場が一番という人もいらっしゃるかもしれません。あるいは、やっぱり田舎に帰った時の実家や、地元の友達と飲んでいる時なんて人もいるでしょうか。
みなさん人それぞれ居心地が良くて快適な場所が一つは必ずあるでしょう。
そんな自分自身にとって快適な場所を「コンフォートゾーン(快適空間)」と呼びます。
もともと心理学用語ですが、コーチングでもこの単語を応用しています。このコンフォートゾーンの意味を理解することが、自分の本来の力を発揮させるために必要なキーポイントになってきます。今回はそんなコンフォートゾーンにまつわるお話をご紹介します。
ある20代男性のSさんは営業をしているサラリーマンです。
もともと人と話すのが得意ではない性格とのことで、セールストークが上手くできず、営業に向いてないのではと思い悩み、相談に訪れました。
Sさん
「小さい頃から内向的な性格で口下手なんです。とっさに嘘とかもつけなくて。仕事では主に企業向けにプレゼンする機会が多く、そのプレゼンで緊張して上手くアピールができなくて結果に繋がっていない状況なんです」。
コーチ
「今私と話していて緊張はされてないですか?」
Sさん
「今は大丈夫です。事前に連絡を取り合っていたのもあり、話しやすい雰囲気もありますし、そこまでの緊張はしてないです。大勢の前とかでもないので」。
対人恐怖症というわけでもなさそうですし、Sさんが普通にお話されているので安心しました。
コーチ
「失礼ですが、彼女さんはいらっしゃいますか?」
Sさん
「はい、4年ほど付き合っている彼女がいます。ゆくゆくは結婚をと考えています」。
コーチ
「彼女さんと話すときは緊張されないのですか?」
Sさん
「それは全く緊張しません。むしろ結構自分から話している方かもしれません」。
ここにヒントが隠されていると思いました。
コーチ
「それでは一度、その彼女さんの前で企業相手に話すようなプレゼンを試してみてもらえませんか?」
Sさん
「え、彼女にですか?普段は、大事なプレゼンがあった夜に大まかな内容は伝えてたりはしていますが、細かい内容まで説明したことはなかったですね。ちょっと難しそうですがやってみます」
彼女さんに向かってプレゼンをするときの注意点として、いつも企業にプレゼンするようにして欲しいとお願いしました。まるで本番さながら、プレゼンする相手から出てくるであろう質問やその答えもしっかりと用意して練習してもらうように言いました。
でも私は心の中で確信していました。“恐らくSさんにとっては簡単なことのように感じるだろうな”と。
なぜなら、Sさんは彼女さんの前では全く口下手ではないはずだからです。つまり、彼女さんと2人きりの空間は、Sさんのコンフォートゾーンだと思ったのです。
例えるなら、サッカーの試合のホーム&アウェイと同じです。
ホームはたくさんの応援があって自分の力を120%出せる環境ですが、アウェイでは、応援ではなくヤジがあったり、芝生が整っていなかったりといつもの練習とは違う環境の中で試合をしなければなりません。
それを今の状況に当てはめると、恋人といる時がホームでプレゼンの場がアウェイになります。恋人といる時間のホームでは、緊張したりせずに自分らしくいられるのではないでしょうか。
それを「コンフォートゾーン」と呼んでいるわけです。
このコンフォートゾーンでは、力(りき)まずに自然体でいられるため、自分の力をそのまま出せることができます。つまりSさんの場合、口下手ではなくなるのです。まずはコンフォートゾーンであるホームでしっかりと勝てるように練習することが大事です。そして自信を持つことで企業先のアウェイでも結果を出せるようになると思います。
ここでもう一つ重要なのが、アウェイでもコンフォートゾーンのホームであるかのように意識することが大切だということ。
アウェイだと意識すればするほど緊張してしまい、ホームでの本来の持つ力は出せません。本来の力を存分に発揮するためには、まずはホーム(恋人の前)で、アウェイのようにプレゼン練習することが必要です。
そうすれば、アウェイであるプレゼンの場で、恋人に話すような意識でホームの感覚でプレゼンできるようになります。緊張せずに口下手関係なくプレゼンができるのではないでしょうか。
なぜなら、今まで自分にとって不快で苦手だと思っていた空間が、快適だと思える空間に変化したからです。これをコーチング用語では「コンフォートゾーンが広がった」「現状のコンフォートゾーンから抜け出す」などと表現します。
その後、Sさんは、「彼女に詳しく話してみます」と言って帰られました。現在の自分が仕事でプレゼンが下手であること。現在の自分が営業成績が良くない事。そのせいでSさんは、口下手で内向的だった幼少時代の過去を思い出し、あろうことかその記憶を強く“肯定”してしまっていました。「これが私らしいんだ。この状況こそが慣れ親しんだ環境だ」と。
それこそが、Sさんのコンフォートゾーンでした。
ある意味、それは良い言い訳にもなってしまっていたのです。できない理由を知らず知らずのうちに過去にさかのぼって現在の自分とリンクさせて悪い意味で納得していました。この場合、納得するというのは、「過去の私は内向的な性格だったのだから、現在も内向的なままで良いんだ」と、自ら進んで受け入れたということです。皮肉なことですが脳は無意識にそう判断してしまう特徴を持っています。
しかし、コーチングの基本として必ず覚えておいて欲しいことがあります。
それは、未来を変えるための「本物のコーチング」にとっては、“「過去も現在も全く関係ない」ということ”です。
無理やり自分の都合で因果関係を結ぼうとしないで下さい。
もちろん、企業先でプレゼンするSさんも彼女の前にいるSさんもどちらもSさんです。では、どちらのSさんが良いのか、どちらの自分でいたいのか。どちらが自分にとってのコンフォートゾーンなのか。もしかしたらどちらもコンフォートゾーンにしたいかもしれない……。
これはSさんが自分で決めることです。何を基準に決めるのかについては別の記事でお伝えしたいと思います。
【文責:編集部】