親世代の免許返納。気になる話題でありながら、なかなか向き合えずにいる方も多いと思います。2019年4月池袋での重大な交通事故発生以来、高齢者ドライバーの事故に世間の注目が集まります。
実際に親と向き合い、免許返納に至った方の実例を伺いながら考えてみたいと思います。
現在日本では、75歳以上の免許保有者は513万人。これは平成28年度末時点 警察庁資料による数字です。75歳以上人口の3人に1人が保有している計算になります。
この数は当然のことながら、人口の自然動態に伴い増加していきます。
引用 内閣府交通安全白書 特集「高齢者に係る交通事故防止」より
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/gaiyo/features/feature01.html
加齢に伴う身体機能の変化のうち、運転に影響すると思われるものには以下があげられます。
(出典 鈴木春男「高齢ドライバーに対する交通安全の動機づけ-交通社会学的視点-」 IATSS Review Vol.35.No.3,国際交通安全学会,pp194-202,平成23年2月)
法律で取得年齢は決められていますが、返納年齢は定められているわけではなく、自主判断によります。
身体機能の変化の差は個々人により大きく違うため、この自主判断に対する悩みを深めます。
今回お話を伺った、Sさんの経験談をご紹介します。
・免許返納をされたお父様:72歳(大阪府在住) Sさん40歳(長女)
「以前から腰の痛みや軽い物忘れが増えてきた父は、普段から車を使用するわけではないのですが、通院や『ちょっと友達と大阪から京都まで……』なんて時に車を使用していました。
父は『自分は大丈夫』と根拠のない自信家タイプなので、プライドを傷付けないように、下から下からのお願いを続けていました。
次第に父に会うのが億劫になってきたりもし、説得が私のストレスの一つになっていました。
ある日、反発したり話を逸らす父に業を煮やし、少し強い口調で
『お父さんが事故起こして、他人を傷付けたりしたら娘の私が世間に晒されるんやで!
ネットに住所や名前も晒されて〝返納させない家族が悪い〟って言われるんよ!』
と言ってしまいました。
父は『え…?』と驚いており、いわゆる『ネット私刑』を知らなかった様子。
それから父は真剣に考えなおしてくれ、近々一緒に免許返納に行く事になりました。
様々な思いや、プライドを傷付けたと思いますが、72歳で返納に応じてくれた父を誇りに思っており、この感謝の気持ちを父に伝え続けたいと思います」
Sさんのケースには、よくあるプロセスが見られます。
根拠のない自信を持つ親、プライドを傷つけないよう下手に出て説得する子ども。
子ども側としては、そのうちに考えることさえもストレスになってくるでしょう。
そんな中親側の意識が大きく変わるきっかけになったのが、現代社会ならではのネット事情。決して良い風潮とは言えませんが、事が起きるとプライバシーがさらされることさえあるという現実を、親世代はあまり認識していません。
「万一のことが起きたら」とは誰もが想像することです。でもSさんのお父様の想像の中に、この現代ネット社会で起き得ることは含まれていませんでした。「家族が酷い叩かれ方をすることも十分あり得る」という認識の変化が、親側の行動に変化をもたらしました。
「免許返納」をテーマに家族で向き合い、互いの認識を共有することで、それぞれの世代が納得する結論を導き出すきっかけになればと思います。
【文責:編集部】