こんにちは! 弁護士の小原です。『熟年離婚』の問題ですが、予想以上に大きな反響をいただいています。
前回お話ししましたが、経営者の熟年離婚は、高額な財産分与などで、とんでもなくお金がかかります。下手をすると会社が傾きかねません。なので、多くの方が強い関心を持っていらっしゃるのが……。
「じゃあ、熟年離婚をしないためには、どうすればいいの? 」
「妻から離婚を迫られそう。熟年離婚の危機を回避する方法は? 」
……ということですね。
わかりました。では、これから「熟年の危機を回避する方法」についてお話ししていきます。
目次
まず、「熟年離婚の危機回避」のための大前提……基本的な考え方についてお話しします。これは離婚の問題のみならず、危機管理(リスクマネジメント)の基本でもあります。
ところで、「リスクヘッジ」と「リスクマネジメント」の違い、ってご存知でしょうか?
よく混同されるのですが、ざっくり言うと……。
「リスクヘッジは、一つの局面のみで起こりうるリスクに対して、そのリスクを回避するための個別策」
「リスクマネジメントは、ビジネスなどのプロセス全体を把握したうえで、リスクが起こりうるあらゆる局面、状況を想定し、管理するリスク回避のための総合的な活動」
という感じです。
「リスクマネジメント>リスクヘッジ」ともいえますね。
これからお話しする「熟年離婚の危機回避の方法」は、リスクヘッジではなく、リスクマネジメントのお話になります。
熟年離婚における最大の〝危機的局面〟とは何でしょう?
それは「奥さんから離婚を突きつけられること」に他なりません。
「もうアナタとは一緒にやっていけない!」
「同じ部屋で同じ空気を吸うのもイヤ!」
「明日までにこの家から出て行って!」
……このように面と向って死刑宣告をされるケースもあるでしょう。
また、「音無しの構え」(古い…)から、ある日突然、家庭裁判所から物々しい封書が届き、恐る恐る開けてみたら「離婚調停の呼び出し状」が出てきた……なんてケースもあったりします。
ですが、実際には、いきなりこのような危機的局面に出くわすのではなくて、そこに至るまでに、いくつかの段階を踏んでいるのです。
つまり、熟年離婚の危機は、小さな種子から生まれ、目立たず少しずつ、しかし着実に成長していき、段階的に顕在化していくのです。
「熟年離婚の危機 ステージ1」→「熟年離婚の危機 ステージ2」→「熟年離婚の危機 ステージ3」……という感じです。
「いきなり死刑宣告」とか「いきなり裁判所」からのお手紙とかのケースは、要するに熟年離婚の危機の最終ステージ、ということです。
このステージに到達してしまうまで何の対策も施していなかった、ということですあれば、残念ながら手遅れ。熟年離婚の危機を回避することは、とてつもなく難しいです。
熟年離婚の危機を回避する極意は、とにかくステージの早い段階で、リスクの芽が大きく育つ前に、できれば種子の段階で摘み取ってしまう、ということに尽きます。
熟年離婚の危機の各ステージは、実際には次のような感じで静かに進行していきます。
具体的には、夫の言動に対して妻がモヤモヤっとした不満や不安、違和感などを感じるようになった状態です。
たとえば、妻が「最近、夫から大切にされていない感じがする。以前はこんなことなかったのに……」と感じているような場合です。
具体的には、夫の言動に対して妻が感じる不満や不安、違和感などが、クッキリと明確な輪郭を持つようになった状態です。
たとえば、浮気の疑いとかDVなどは論外ですが、夫は悪気がないつもりでも、妻が「夫の私に対する◯◯という言葉はとても無神経。なんでそんな酷いことを言うんだろう」と、夫の言動に傷つけられたと感じているような場合。
あるいは、「私が毎日これだけ頑張っているのに、夫は全然評価してくれない。感謝してくれない」と、夫の無関心に傷つけられたと感じているような場合です。
具体的には、妻がこれまで夫に感じていた不満や不安、違和感などが、夫に対する明確なネガティブな感情の形を取るようになった状態。
平たく言えば、「コイツ嫌い!」「もう無理!」「一緒にいたくない!」「顔も見たくない!」と思っているのに、それでも、あなたと離婚することのメリット(こんな嫌なヤツと顔を合わせなくて済む)と、デメリット(お金の問題、老後の問題、お子さんとの関係性の問題、などなど)を天秤にかけ、離婚に舵を切る踏ん切りがついていない状態です。
いよいよ踏ん切りがついた状態。いきなり死刑宣告、いきなり裁判所からのお手紙。
もうおわかりかと思いますが、それぞれのステージごとに、奥さんから発信される「リスクのサイン」があります。
このサインにいち早く気付き、対処することが大事です。とにかくステージの早い段階で、できればステージ1の「種子が蒔かれた段階」で的確な初期対応をすること、これがベストです。
ステージが上がるに従って対応の方策は難易度が高くなり、それに伴って方策が成果を上げる可能性(つまり、離婚の危機を回避できる可能性)は低くなっていきます。
では、具体的にどのような対応をすればよいのでしょうか?
効果的なリスク対策をとるためには、まず、リスクが生まれる原因を明らかにし、把握しなければなりません。
原因を特定し、つぶしていくのです。
熟年離婚の原因は、何と言っても「夫婦の価値観の食い違い・コミュニケーションの不全」です。正確な統計データはありませんが、私の体感値(弁護士実務歴26年以上からの経験値)としては、熟年離婚の原因の圧倒的多数派がこれです。
なので、熟年離婚の危機を回避する効果的な方法は、「奥さんの価値観に寄り添い、奥さん目線でのコミュニケーションを活性化させること」に尽きます。これをそれぞれのステージごとで実践していく、ということです。
次回は、それぞれのステージごとで実践すべき施策についてお話ししましょう。