こんにちは! 弁護士の小原です。
熟年離婚の危機を回避する極意は、「奥さんの価値観に寄り添い、奥さん目線でのコミュニケーションを活性化させること」。そのために必要不可欠のスキルが、前回お話しした「交渉術」(「熟年離婚の危機」を回避する秘策とは!? その2参照)です。交渉術でもっとも重要なのは、小手先のテクニックではありません。
「相手の信念や価値観を否定しない。自分の信念や価値観を相手に押し付けない。まず先に相手の信念や価値観を認め、しかる後に自分の信念や価値観を、相手の信念や価値観と矛盾しない形で提示していく」という大前提、原理原則です。
熟年離婚の危機には、リスクの大きさによって、ステージ1からステージ4までの各段階があります(「熟年離婚の危機」を回避する秘策とは!?参照)。
離婚の危機を回避するためには、それぞれのステージごとに、この交渉術の原理原則を実践していき、そうすることで、奥さんの価値観に寄り添い、奥さん目線でのコミュニケーションを活性化させていく必要があります。
では、それぞれのステージごとに、具体的にどうすればよいのでしょうか?
今回のお話は「ステージ1」についてですが、まずはすべてのステージに共通する大前提を紹介しましょう。
それは、あなたが今、どのステージにいるとしても、とにかく、「自分の態度や言動に対する妻の不満・不安のサインに気付くこと」です。
このサインに気付かないと、そもそもお話になりません。
『妻のトリセツ』という本が話題になっていました。脳科学的に男女の脳の働き方には違いがあって、そのためコミュニケーションの取り方についても男女差がある、ということらしいです。
その根拠や学説の詳しい内容などは、とりあえず置いておきますが、女性が出すサインは男性から見て、確かにわかりにくいもの。
「はっきり言葉にしてくれればわかるのに」
「不満や不安があるなら、はっきり言葉にしてくれないと気付きようがないよ! 」
……おっしゃるとおりです。私も男性なので、あなたの気持ちはよくわかります。でも、大丈夫です。
そんな場合は、リスクマネジメントの鉄則を応用すればOKです。
すなわち、「最悪の事態を想定して行動せよ」です。
奥さんが本当に不満・不安を持っているかは二の次です。
「自分の何らかの言動に妻が不満・不安を持っている」と仮定して奥さんに「寄り添っていく」アプローチを取ればよいのです。
さて、それではステージ1を見ていきましょう。
ステージ1とは、危機の種子が蒔かれた状態です。具体的には、夫の言動に対して妻がモヤモヤっとした不満や不安、違和感などを感じるようになった状態。
たとえば、妻が「最近、夫から大切にされていない感じがする。以前はこんなことなかったのに……」と感じているような場合です。
ステージ1では、奥さんのあなたに対する悪感情は、まだ顕在化していません。
未だ明確な形を持たない「モヤッとした不満・不安」の段階です。
この段階での「不満・不安のサイン」をキャッチすることは、とても簡単です。なぜなら、この段階での「不満・不安のサイン」は「愚痴」という形を取って、あなたに向けて明確に発信されてくるからです。
奥さんの愚痴を侮ってはいけません。
「ハイハイ」「今忙しいんで……」などと軽く流したり、無視したりするのは問題外です。
この「愚痴」の中にこそ、未だ明確な形を持たない、奥さんのあなたに対する「モヤッとした不満・不安」がその恐ろしい姿を隠しているのです。言い方を変えれば、この「愚痴」の中にこそ、熟年離婚の危機の種子が蒔かれ、芽を出すのを待っているのです。
では、奥さんから愚痴をこぼされたあなたがすべきことは……?
そう、ただただ、ひたすら、「愚痴を聞いてあげる」ということです。
実は、ステージ1の段階では、ただひたすら奥さんの愚痴を聞いてあげるだけでなんとかなるものなのです。
「奥さんが愚痴をこぼす → あなたがひたすら聞いてあげる」
「翌日また、奥さんが愚痴をこぼす → あなたがひたすら聞いてあげる」
「その翌日もまた、奥さんが愚痴をこぼす → あなたがひたすら聞いてあげる」
……もの凄く非生産的で、時間と労力を無駄にする負のループのように見えるかもしれません。
しかし、これ以上に確実に、ステージ1の熟年離婚の危機を回避できる方法はないのです。なにしろ、危機の種子が芽を出そうとするところをピンポイントで狙って、その芽を次々と摘んでいく訳ですから。
時間と労力というコストが大きくて、シンドイです。しかし、効果は絶大です。「手間ひまがかかって面倒だけど美味しい果物ができる、有機無農薬栽培」みたいなイメージですね。
ここで、ご注意いただきたい、多くの男性が勘違いしていることがあります。
それは、「奥さんの愚痴に対して、絶対にアドバイスをしてはいけない」ということです。
このあたりが実は、男性の脳と女性の脳の働き方の違いのようなのですが、女性の愚痴が一見、「相談してくる」という形に見えるとしても、相手は決してアドバイスや問題に対する解答を求めている訳ではないのです。
「要するに、あなたの言いたいことは、こういうことだよね。つまり……」なんてまとめようとするのは問題外です。
「ああ、この男は私のことをまったく理解していない」
と失望、絶望へとつながっていきます。
奥さんの愚痴をひたすら聞くということは、奥さんの価値観を否定せず、寄り添うことです。愚痴を遮って強引にマトメようとするのは、奥さんの価値観を否定して自分の価値観を押し付けることです。絶対にやってはいけないことです。
だから、「とにかく愚痴をただひたすら聞き続けるべし」なのです。
奥さんは、お子さんのことであったり、親の介護のことであったり、家事のことであったり、いろいろな厄介ごとを抱えています。そういった問題について、とりとめのない愚痴をあなたに吐き出し、出し切ったらスッキリします。出し切るまで根気よく付き合ってあげましょう。
そして、愚痴は「情報の宝庫」です。
奥さんは、愚痴の中で、あなたに改善してほしい問題に言及するはずです。あなたはそれをサインとしていち早くキャッチし、速やかに改善してあげましょう。
「勘違いアドバイス」ではなく、「行動」で示す。「男は黙って、不言実行」ですよね。