お互いが「この人と人生を全うしたい!」と願い結婚し、実際に長年苦労をともにしてきた夫婦…。それでも「熟年離婚」という結論に至るケースは、いまやまったく珍しいことではありません。でも、もちろんそこに「モメごと」はつきもの。
特に「慰謝料」「財産」など、お金の問題は避けて通れないものです。
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こんにちは!弁護士の小原です。
ひと昔前に『熟年離婚』というドラマがありましたが、熟年離婚というと、あなたは、どういうイメージをお持ちでしょうか?
分別のある大人同士の離婚だから、ドロドロせずに円満にスムーズに、というイメージでしょうか?
30代、40代の離婚だと、浮気やDVなど、どちらかに大きな問題があって離婚に至る、というケースが多い印象です。たとえば、妻が子供にばかり愛情を注ぐので、不満がたまった夫が浮気に走るとか、妻子に暴力をふるうとか……。
一方、50代以上の方の場合、お子さんは成人している場合が多いです。すでに子離れし、夫婦2人だけの生活になっているケースです。
お子さんと一緒に暮らしていたときには、お子さんがクッションになって、問題が表面化しにくかったのですが、夫婦2人だけの生活になると、お互い逃げ場がありませんので、お互いの欠点が結構目についてきます。
話が合わない、価値観が合わない、コミュニケーションが取れない……。
細かな日々の不満が積もり積もって、いつしか限界点を超えてしまうと、「もうこの人と2人だけの生活は無理!」となってしまいます。
このように、浮気やDVなどの派手な展開がなく、地味にジワジワと進行していく、というのが熟年離婚のひとつの特徴です。
大人同士の離婚だから、円満にスムーズに、という訳でもありません。結構モメるケースが多いのです。
では、熟年離婚の場合、どういう問題でモメるのでしょうか?
30代、40代の離婚だと、お子さんが未成年の場合が多いので、お子さんの親権のことで、つまり、夫と妻のどちらがお子さんを引き取るのかでモメることが多いです。
一方、50代以上の離婚だと、お子さんは成人している場合が多いので、親権でモメるということは多くありません。
でも、親権でモメなくても、お子さんとの関係性は重要です。特に、老後の介護や相続、お墓の問題など、重要な問題がたくさんあります。
30代、40代の離婚でも、50代以上の離婚でも、離婚すると様々なお金の問題が出てきます。
50代以上の方たち、特にこの記事を読んでいらっしゃる経営者の方たちは、若い年代の方たちよりも圧倒的に多くの「資産」をお持ちです。
なので、50代以上の離婚では、お金の問題がより一層シビアになってきます。熟年離婚の場合、高額なお金をめぐって、結構ドロドロした展開になっていくことが珍しくありません。
まずは、この「お金の問題」についてお話ししていきます。
「離婚のお金の問題」というと、多くの方がすぐに「慰謝料」をイメージされるのではないでしょうか?
なんとなく世間的には、慰謝料って離婚すると必ず払わなければいけないもの、というイメージがあります。
「男性から女性に必ず払うもの」というイメージですね。
しかし、本当は違います。
離婚して慰謝料を払わなければいけないのは、不倫やDVなどの違法性の高い行為が離婚の原因になった場合に限られます。
こういう場合には、相場的にだいたい200万円から300万円くらいの慰謝料を払わないといけないことになります。
ここで、ちょっと疑問に思われた方もいらっしゃるのでは?
よくテレビのワイドショーなどで、芸能人やスポーツ選手の離婚が報道されると、「慰謝料が数千万円、数億円」なんていうお話がよくあります。何かケタが違っていますが……。
実はこれ、次にお話しする「財産分与」というものと慰謝料とがごっちゃにされてしまっているからなんですね。
財産分与については、このあとで詳しくお話ししますが、まずは慰謝料の続きを……。
離婚の原因に特に違法性がない場合には、慰謝料を払う必要はありません。
離婚の原因で圧倒的なナンバーワン、と言われているのが、いわゆる「性格の不一致」です。
裁判所が公表している統計データによると、家庭裁判所に離婚調停を申立てた理由ですが、妻の場合は44.4%、夫の場合は63.5%が「性格の不一致」です。
50代以上の方の場合は、この「性格の不一致」で離婚する方が特に多いようです。
性格や価値観が合わない、ということは、個人差の問題ですから、別に違法
という訳ではありません。
なので、離婚しても、ほとんどの場合、慰謝料を払う必要はないのです。
でも、慰謝料とは別に財産分与というものがあります。
財産分与というのは、結婚後にできた財産(預金・貯金や有価証券、不動産など)は、夫婦で半分ずつに分けます、というルールです。
夫の名義でも、妻の名義でも、結婚後にできた財産は、すべて夫婦の共有財産とみなされます(ただし、結婚後でも、相続や贈与などで親からもらった財産は含みません)
「この預金は自分の名義だから、全部自分のもの」ということは出来ません。
そして、夫婦の共有財産は、離婚の時(正確には別居の時)を基準に、元夫と元妻で半分ずつに分け合います。
50代以上の方たち、特に経営者の方たちは、若い年代の方たちよりも圧倒的に多くの資産をお持ちです。
なので、財産分与で相手に渡す財産の金額が、恐ろしく高額になってしまうことが少なくありません。
先ほどお話しした、芸能人やスポーツ選手などの離婚で「慰謝料数千万円、数億円」というのは、実は慰謝料ではなく、財産分与のお話なのです。
お金持ちの離婚では、財産分与の額がとんでもない金額になります。
50代以上の経営者の方たちにとっても、人ごとではないですよね?
預貯金だけでなく、株式投資や不動産投資などで築いた大きな財産も、当然財産分与の対象になります。
あなたが奥さんに頼らず、独力で、あなたの才覚だけで、自らリスクを取って運用し、築き上げた多額の財産も、結婚後にできたものなら、すべて、その半分が奥さんのもの、ということになってしまう訳です。
さらに、財産分与の対象になる財産、つまり、相手に半分渡さなければならない財産は、預金・貯金や有価証券、不動産といった、今、目の前に現物として存在する財産だけではありません。
今はまだないけれども、将来手に入る権利も財産分与の対象になります。
それは、つまり「退職金」のことです。
退職金も財産分与の対象になります。
あなたが役員として会社から支給される退職金だけでなく、退職金の原資にするために加入している保険の解約返戻金も、もれなく財産分与の対象になります。
また、あなただけでなく、奥さんもあなたの会社の役員になっている場合は、さらに厄介なことになるかも……。
もし、あなたの奥さんがあなたの会社の役員になっていて、自社株を保有しているとしたら……。
その株はあなたが買い取ることになります。
中小企業の場合は、安定した会社経営を維持していくためには、最低でも3分の2以上の自社株を社長が保有しなければなりません(詳しいことは家族がバラバラに! 事業承継は甘くない!のところでお話しします)。
離婚したら奥さんは赤の他人になります。
赤の他人に大切な会社の株を持たせている訳にはいきませんので、当然、社長であるあなたが買い取らなければなりません。
優秀な社長であるあなたが経営する優良な会社の株式は高額です。
その株式を買い取るためには、多額の資金が必要になります。
高額な財産分与に加えて、多額の株式の買取り資金まで必要・・・。
おわかりいただけたでしょうか?
経営者の熟年離婚は、とんでもなくお金がかかります。
下手をすると会社が傾きかねません。
熟年離婚をお考えの経営者の方は、覚悟が必要ですよ。