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花田敬 「ミスター保険営業」最強の紹介営業

今回のゲスト・イーエフピー株式会社代表の花田敬さんは有名な営業コンサルタントとして活躍されていると同時に、私・大坪の生命保険会社時代の大先輩でもあります。

営業といえば、アポイントの取り方からヒアリングの仕方、プレゼンテーションと様々な手法がありますが、今回、花田さんに特別に伺ったのは「紹介入手」の手法について。

目の前にいる人の向こうにいる人の集まり、グループを紹介してもらう」という花田さん独特のやり方についてお話しをうかがいます。

 

花田敬氏プロフィール

イーエフピー株式会社 代表

花田敬(イーエフピー株式会社 代表取締役)         

伝説の保険営業マン〟にして、
業界最多の著書数を誇る圧倒的ナンバーワンコンサルタント。
多くの営業マンからリスペクトされ続ける「ミスター保険営業」!
93年ライフプランナーとしてソニー生命熊本支社入社。
94年95年にソニー生命社長賞を受賞。
96年に同社を退社し保険営業パーソンソネット九州株式会社を設立。
94年~99年にわたり6年連続MDRT会員を維持。

99年東京にイーエフピー株式会社を設立し、
これまでの卓越した営業実績に基づいた営業ノウハウをベースに、大手銀行、生命保険会社、損害保険会社、 証券会社、大手住宅メーカーなどの企業コンサルティングや社員研修を行うほか、セミナーや講演も多数手掛ける。また、その傍らで関東学園大学の非常勤講師も務める。
『売れる営業の基本』『プロ中のプロが教える営業のセオリー』『売るための教科書』など、「営業マンのバイブル」ともいえる多数の著書がある。

「セミナー営業」の原型は自動車学校の説明会

大坪 まずは、花田さんの最初のお仕事のお話からお聞かせいただければと思います。

花田 私は熊本の出身ですが、大学を卒業し、地元の商社に入りました。その商社は小さかったのですが、自動車学校を経営したり、洋服屋、酒屋、酒の卸し、倉庫業、輸送業など様々な事業を行っていました。その本社に配属され、いろいろな事業部で仕事をしていました。

大坪 当時から営業の仕事もされていたのでしょうか?

花田 私が入社した時、はじめて営業部を作ろうという話になりました。酒の卸し、倉庫業、輸送業などをやっていましたから、商業系の高卒の方が多く、大卒はあまりいませんでした。従業員は400人くらいいましたが、たまたま大卒の私がそこに入社して、営業部を作ろうということになったのです。

最初の営業は、自動車学校の生徒を募集するというものでした。
普通、自動車学校に通うとなると、家から近いところとか、大学の先輩が知っているところとか、看板を見て通うといったケースが多いと思います。私が入社した会社は、熊本駅の近くにある自動車学校を運営していましたが、もう1校上熊本駅という田舎にある駅の近くに作りました。しかし、生徒が集まらないので、営業するべきだということで私が営業することになりました。これが、最初の営業の始まりです。

大坪 自動車学校の営業って、どのようにするのですか?

花田 最初は何もわかりませんでした。経営者も先輩も営業したことがなかったものですから、地図を買ってきて、自動車学校に近い家から一軒一軒飛び込みで営業していくというものでした。

大坪 それは営業のやり方として正しいのでしょうか?

花田 いえ、大間違いだったと思います(笑)。

大坪 家に行ったら出てくるのがおじいちゃんやおばあちゃんかもしれませんよね。

花田 そうなんです。昼間営業するわけですから、家に行くとおじいちゃんやおばあちゃんが出てきて、どうぞ上がってくださいと言われるのですが、寝たきりの人がいるから起こしてくれとか、信じている仏さんはいるかとか聞かれて……そんな感じで営業していたのですが、まったく成果は挙がりませんでした。

そこで自動車学校に通っている人を分析すると、18歳くらいの若い人が多いわけです。18歳の半分くらいが大学に行って、半分くらいが就職しますが、進学する人は大学に入ってから免許を取るので、就職するまでに免許を取る高校生にターゲットを絞りました。ところが、彼らは学校に行っているので自宅にはいないわけです。熊本には25校の高校があったのですが、その25校の進路指導の先生のところに訪問に行きました。

就職するのに要免許といった要件があったりするので、就職したい学生さんは免許を取得したいわけですが、誕生日が1月や2月だったら時間が足りなくて免許が取れない。そこで、学校の授業があるけれど、9月くらいから自動車学校に通ってもいいというふうにできませんかとスケジュールについて先生と交渉していました。結局は生徒を紹介してほしいということですね。ですが、先生も個人的に紹介することはできないということで、それでは、どうすれば免許を早く取れるかとか、どの時期に通えばいいのかなどについて、運転免許の相談会をさせてもらえないでしょうかと提案しました。

大坪 それは花田さんご自身で考えたのでしょうか?

花田 そうです。

大坪 すごいですね。結論として王道をいってらっしゃる。

花田 当時はそれしかなかったのですね。学校の先生は、体育館に生徒を集めて指導をしているというのを聞いて、それじゃあ体育館で希望者だけ集めてできないでしょうかとお願いしました。これが大成功しました。
生徒さんからすると、名刺をもらったということで、もう知っている自動車学校だ、ということになるんです。

大坪 そうでしょうね。

花田 自動車学校はどこに行っても同じです。じゃあどこに決めるかというと、知っている人がいるところになるわけです。しかし、先生は中立性を保ちたいということで、運転免許説明会には他の自動車学校の方も来ていました。しかし、他の自動車学校には営業マンがいませんでしたので説明に来たのは職員でした。彼らは営業ではありませんので、パンフレットを配って少ししゃべってそれで終わり。

私は営業でしたから、しっかりいろいろと説明していました。すると、生徒のうち半分くらいはうちの学校に来てくれました。これは最近私がずっと主張している「セミナー営業」にすごく近い形のものです。

大坪 そこにセミナー営業の原型があるのですね。

花田 高校で説明会を開いた後、今度はそれを応用して商業施設で運転免許相談会を開きました。保険の来店型の店舗と似ていると思いますが、土日だったら学生さんに来てもらえるので、そこで運転免許の相談会をやるのです。

大坪 それもご自身のアイデアなんですか?

花田 そうです。高校の授業みたいな感じで説明会を開き、希望する人だけが自動車学校に入るというスタイルを作ったのです。

例えば、商業高校の女の子が自動車学校に入って卒業したら、その子の後輩を紹介してもらう。その後輩に「今度、君の学校で運転免許相談会をやるから、クラスの友達とかサークルの友達を呼んでおいてね」と頼むわけです。

大坪 その時に「いや、そんなこと言われても……」って反応する子はいなかったのでしょうか?「いいですよ」って素直に引き受けてくれる人の方が少ないような気がするのですが……

花田 基本的にはみんな、運転免許を取りたいんですよね。

大坪 なるほど。潜在的にニーズがあるわけですね。

花田 どうしても取らなきゃいけないという事情があると思います。東京以外の土地では、運転免許は必須です。また、紹介してくれるということには、自分が免許取った時にお世話になったという気持ちもあるのだと思います。「おかげさまで免許を取って就職することができました。後輩の面倒も見てください」ということになるわけです。

自動車学校の指導員や検定員は来て教えるだけで、アフターフォローをすることはありません。そのため、自動車学校を卒業できない人も出てきます。私は営業でしたから、一人一人に気を配って、2、3日来てなかったりすると電話をかけたり、仮免に合格すればおめでとうというハガキを出しました。

大坪 まるですでにベテランの営業マンみたいですね。

花田 送迎バスが行かないのであれば、自分の営業車で迎えに行ってあげたりしました。そのような努力が実り、県でナンバーワンの自動車学校になりました

大坪 その頃から紹介という仕組みが組み込まれていたのですね。

花田  そうです。「人から人」という「点と点を結ぶ紹介」ではなく、説明会を開いてその場所に来てもらうという「点と面をつなぐ紹介」というやり方です。

紹介が取れない日々…しかし「セミナー営業」で大逆転

大坪 自動車学校時代のご経験は、その後保険業界に移られてから役に立ちましたか?

花田  もちろんです。

大坪 保険営業というと、マンツーマンで信頼を勝ち取ってお客さんになってもらい、点と点で紹介してもらうという感じですけど、そうじゃなかったんですか?

花田  そうじゃないですね。最初は会社から教えてもらったように、「一人のお客さんからその次の人を紹介してもらって、また次の人を紹介してもらう」というやり方をしていました。

大坪  そうですよね。「無限連鎖法」と称する方法。

花田 私は2週間目にギブアップしました。これはダメだ、と早いうちに悟りました。ものすごくストレスかかるんですね。「保険の話を聞いてくれる人を紹介してください」みたいな感じで行くと。

大坪 私も3年間苦しい思いを我慢していました……。

花田 2日間出社拒否したほどです。その時は「もう保険営業は辞めたい」と思いましたね。

大坪 そこからどのようにして変えていったのですか?

花田 自動車学校で営業をしていた時も、運転免許を取る人を直接見つけることはできませんでした。ところが、進路指導の先生を当たることによって、結果として顧客を見つけることができました。進路指導の先生は運転免許を持っているので見込客ではありませんが、先生が指導している生徒が見込客になったわけです。

これを保険営業にも応用しました。つまり、すでに保険に入っている人、もしくは保険に入りそうにない人でもいいので、とにかく会う人を全員リストアップしていきました。保険に入るかどうかは関係なく、出会った人すべてに挨拶に行こうと決めました。いざ挨拶に行ってみると、保険に入らなさそうだった人が、「花田君が保険営業やっているなら任せてみよう」ということで徐々に契約が取れるようになりました。

大坪 とにかく人と会うのが大事、ということですか?

花田 そうです。「保険を売りに行く」のではなくて、「人に会いにいく」のです。
そうこうしているうちに、ある税理士さんと知り合いになって、よく会いに行っていました。

税理士の人たちはあまり保険に入らないのですが、「そういえば、花田さんのところ医療保険ありますか?」という具合に一人一人保険に入ってくれるようになりました。そこの税理士事務所の7割から8割くらいの人が私のお客さんになってくれたのです。すると、税理士の先生に呼ばれて、「花田君、なぜうちの職員たちは君の会社の保険に入るのかね?」と聞かれたので、普段職員の方にしているように説明したのです。「なるほど。それはわかりやすい話だね」と先生は言ってくれました。

普通の保険の営業マンは難しい話をしますが、私はすごく簡単な話しかしません。例えば……。

「万一のことがあるために保険って入りますよね。万一の時といっても、100 歳で万一の時のために生命保険に入るわけじゃないですよね。若くして万一のことがあったら困るから生命保険に入りますよね。生命保険は 99 歳以上生きたら必要ないのです。
また、自動車保険も万一の時に入りますよね。事故の場合は何回もある可能性があり、1回の事故がとても大きなものになることもあります。でもこれも万一の話です。また、万一のために預金をするということもありますね。このように、すべて万一の時のためと言いますが、生命保険と自動車保険と預金の区別ができていないのが一般の方なのです」

 

こんなふうに話をすると、税理士の先生が「なるほど。そういう話を知らない人が多いから、セミナーでも開いてみませんか?」と言ってくれたのです。そこで、一般の人にわかりやすいように、生命保険のセミナーを20分くらい行いました。

大坪 お客さんは税理士さんが集めてくれるわけですね。

花田 そうです。今では税理士さんも営業を一生懸命やられているようですが、昔は営業とかPRはそれほどやっていませんでした。そのため、顧客開拓するためにセミナーや勉強会をよく開いていました。セミナーには税理士さんの他にも、社会保険労務士も講師として呼んでいました。そして、保険の話も面白そうだからやってもらおうということになったわけです。

社会保険労務士の話は1時間半、私の話は1時間を予定していたのですが、社労士の方が誰も理解できないような細かい数字を並べて2時間も話をしてしまって、私の持ち時間が30分になってしまいました。休憩を10分入れたので、実際に話した時間はわずか20分。何を話したかというと、さきほど述べたような簡単な話だけです。

あと、追加して話したのは海外旅行保険の話です。海外旅行に行った場合、旅行から帰ってきて玄関の中に入ったら支払い対象外になります。だから、調子が悪くて電話してきたら、家の鍵は閉めてください。玄関の外で亡くなったら保険金が出ますから(笑)。というような話をしたら、ものすごくうけました。それが私の第1回のセミナー営業でした。1994年の6月3日のことでした。

大坪 それが花田さんの勧める保険営業における「セミナー営業」の始まりだったのですね。
今のお話を伺って思うのは、AさんからB さんを紹介してもらうというように狭く捉えるのではなく、AさんからB さん、そしてZさんまで数十人と一気に会う。これもまた形を変えた紹介ですよね。あまり狭く考えなかったことが成功の要因なのでしょうか?

花田 そうですね。紹介というのは信頼されないとしてくれません。信頼している人を紹介するわけです。信頼を別の言葉に言い換えると推薦ということになりますが、私は税理士の先生に信頼され、推薦されてセミナーに出るようになりました。また、セミナーに来てくれる人たちは、税理士を信頼しているわけです。

大坪 人の信頼を借りるということですかね?

花田 そうですね。信頼されるということが大切です。顧客の信頼している人を紹介してもらい、その人に信頼してもらうことができたら、次はその人の信頼している人を紹介してもらう。

例えば、セミナーを開いた後、ある歯科医師の方に契約して頂くことができました。その人によると、歯科医師たちは集まって勉強会をしているけれど、インプラントとか歯の勉強会ばかりなので、たまには保険の話をしてもらえませんかと言うわけです。

そこで、私は歯医者さんを相手に保険の話をしました。そこでは、保険の種類の話ではなくて、どちらかというとあまり知られていない話をしました。保険の時効についてとか、請求の仕方についてとか。そういう話をしているうちに、よかったら今度は会合でも話してみませんかということになって、歯医者さんの会合に呼ばれました。すると、その会合にいた歯医者さんの奥さんが所属している法人会に呼ばれ、次は法人会に所属している銀行が主催する経営者2世会に呼ばれました。

大坪 1対1の面談の繰り返しではなくて、集団を相手に営業されていたわけですね。1年目からかなりの数字と件数を上げられたんですよね?

花田 件数は150件くらいで、初年度の年間コミッションが1700 万円くらいでした。

大坪 それはすごいですね!

花田 呼ばれて行ったセミナーもありますし、自分で主催したセミナーも月2回やっていたので、ターゲットはたくさんいるわけです。

大坪 なるほど。

花田 最後は経営者だけを対象にセミナーをやっていました。そうすると、銀行も当時は保険を売っていませんでしたから、いろんなところに私を講師として連れて行ってくれたのです。

大坪 私は3年目くらいが一番しんどかったのですが、花田さんは最初からロケットスタートで成功しました。なぜこれほど成功できたのか…。

例えば、今のお話ですと、人が集まる場所で話をするということは花田さんが気づいたわけではないですよね。当時、花田さんのようなことをやっている人はいたのでしょうか?

花田 保険セミナーを一般向けにやっている人はいなかったと思います。

大坪 ではそこに気がついたのが花田さんということですか?

花田 いえ、私が気づいたわけではありません。税理士の先生が「君の話は面白いからセミナーで話してみないか」ということだったわけです。そこで、話してみたら歓迎されたということです。

大坪 なるほど。

花田 セミナーのアンケート結果を見ると、社労士さんは話があまりうまくなかったので、保険セミナーの方が評判が良かった。ただ、2回目のセミナーの時、両方とも保険の話をすると、お客さんはたった2人しか来ませんでした。つまり、話は保険の方が面白いけれど、集客に関しては社会保険関係の方が良かったわけです。

大坪 そうなのですね。

花田 これは、今とつながる話ですが、中小企業の経営者とか銀行の取引先で勉強会がある場合、保険の話を最初にすることはありません。保険営業マンがどうやって営業をしているかという話をします。そちらの方の話をして、後で保険の話をするという形です。

大坪 なるほど。今の形につながるわけですね。ここで一つ質問ですが、今この時点で花田さんが熊本で保険営業マンだったとしたら同じ方法を試しますか?

花田 やると思います。

お客さんの関心ごとに寄り添ってビジネスをする

大坪 さきほどの「話のテーマを保険にしてはダメ」という話ですが、例えば、経営者を相手に話をするのであれば、「売上」をテーマにするということですよね?

花田 保険というのは保険料が必要ですが、その保険料は一体どこから出ているのかということなのです。保険料は給料から出ているわけで、給料は会社の人件費から出ています。会社の人件費がどこから出ているかというと売上なわけです。

企業に残ったお金の中から保険料を払うのですが、企業の売上がないと保険には入らないわけです。つまり、売上があって初めて保険が成り立つということを理解すべきです。だから、売上に協力するわけです。給料がない人は保険に入れないのですから。

大坪 筋の通った話ですね。

花田 できる営業マンというのは、A 社とB 社をくっつけて売り上げを上げようとします。なぜなら、それによって利益が出て、保険料を支払うことができるからです。
保険会社はものすごい経費をかけて営業マンをトレーニングします。これだけ営業にお金をかける業種も珍しいです。営業マンは最高の教育を受けているにも関わらず、自分が保険を売るためだけにその成果を使うのはもったいないということです。

大坪 確かにそうですね。

花田 会社で受けた教育をお客の売り上げに貢献するような形で返すことができれば相手は喜びます。

大坪 自分の関心のあることではなく、相手が関心を持っている話をするということですね。成績が上がらない人は自分の関心のあることに引っ張り込もうとするから、どうしても無理が出てしまうということですね。

花田 保険営業マンからすると、自分の課題というのは保険契約を取りたいということですよね。でも、お客さんの課題は売り上げなのです。どっちの話をするかということですね。

大坪 ということは、実力も必要かもしれませんが、視点を変えたら勝ちということも言えるのではないでしょうか。

花田 そうですね。みんなが保険に詳しくて、保険の説明を一生懸命する時に、私は相手の売り上げを上げるために人脈がどう使えるかを一生懸命考えるのです。

大坪 花田さんはそこに気づかれたわけですね。

花田 それから、もうひとつお話すると、月3万円の保険料は年間36万円で30年間払うと約1000万円です。普通の人の生涯賃金は2億か3億くらいと思いますが、それを考えると保険料は消費税分以下ということになります。消費税にも満たない額のお金に焦点を当ててビジネスをするのですかということです。

例えば、年収300万の人が30年働くと9000万の所得になりますが、所得税を払っても8500万くらいは手元に残るわけです。でも、そのうち貯金として残るのはわずかで、その他は住宅、飲食、車などいろんなものに消費しているわけです。とすると、誰でも出会った人はどこかの企業の売上に貢献できる可能性があるということになります。

大坪 なるほど。そういう発想をするのですね。

花田 保険のお客さんになるかどうかで物事を考えるのはとても狭い物の見方ですね。

大坪 そうですよね。でも大部分の人はその狭い発想の中で生きているのではないでしょうか?

花田 ほとんどそうだと思います。だから多くの人は気づいていないのです。売上を上げている人は、何かを依頼してもすぐにやってくれたり、誰かを紹介してくれたり、そういった癖がついているのです。

大坪 相手の関心事にこちらを合せるというスタイルですね。

花田 経営者の関心事は決まっていて、売上を上げる、コストを下げる、あとは労務問題ですかね。なかでも売上を上げることに一番関心があるわけですから、そこを意識して話をしていると効果があるというわけです。

保険は「売るもの」ではなく「教育するもの」

大坪 花田さんはセミナーでは少し本題とずらした話をするということですが、なぜそのようなことをするのでしょうか?

花田 セミナーでは「自分がしゃべっていて楽しい話」をするようにしています。自分が楽しくないと飽きてしまうのです。大坪さんもセミナーをやっている時、楽しくて笑ってしまうことってないですか?

大坪  ありますねー。

花田 ありますよね。セミナーでは楽しくしゃべることは大切です。「こんなこと知っていますか? 知らないでしょう?」みたいなことを話すわけです。

よく話をしていたのは、「1年間で何人の人が亡くなるか」という話です。銀行とか証券会社の人は1万人とか10万人と答えるのですが、実際に亡くなっている方は100万人にも達します。そのうち交通事故で亡くなる方は5000人くらい。これを某大手の証券会社で質問してみると、1年間で亡くなる人が10万人で、そのうち自動車事故で亡くなる人が9万5000人くらいだと答えていました。つまり、死亡する人はほとんど自動車事故で亡くなっていると思い込んでいるわけですね。

ところが実際は違っていて、ほとんどの方は病気で亡くなります。あと、毎年3万人くらいの人が自殺で亡くなっていますね。毎年100万人もの人が亡くなっているという現状の中で、生命保険に入っていないとどうなるでしょう? といったような話の展開に持っていくわけです。

大坪 なるほど。

花田 あと「時効」の話もよくしました。保険にも時効があって、死亡保険や傷害保険にも時効があります。例えば、両目を失明したり、事故でケガを負ったりしたとしても、請求しなければ時効がやってきます。保険というのは受取人が請求しなければならないというのがルール。お客さんは保険料を払うよりも、もらうほうに興味があるので、そういったことを話していました。

大坪 花田さんは話す内容を考える時、自分の保険を売るという意識を頭から追い出すのでしょうか?

花田 保険を「売る」という気はまったくありません。保険は売るものではなくて、「教えるもの」だと考えています。

大坪 その辺りの意識の持ち方によって、中身が変わってくるのでしょうね。下心があったら絶対に売る前提の話をしてしまうと思います。

花田 売れるというのが分かっているから教えるわけです。
例えば、初めてホームページを作りたいという人にいきなり「HTMLで作りますか?それともXMLで作りますか?」と聞いても、何のことだかわからないと思います。これでは絶対に買わない。知らないものを買う人はいません

大坪 そうですね。

花田 話を聞いて理解できれば買ってくれる。だから、保険とはどのようなもので、どういう時に役に立つものなのかということをお話します。ライフプラン全体を教育して、その中で保険は必要だということを理解してもらった時、初めて保険商品の話をします。企業の場合であれば、売上をどのように守るリスクマネジメントの一つの手法として保険があるわけです。そういった基本的な考え方を教えています。

見込み客探しから契約まで

大坪 花田さんは保険会社で成功された後、営業コンサルティングとして仕事をしてこられました。これは私自身もよく聞かれる質問なのですが、なぜ職種を変更されたのでしょうか?個人として所得を最大にするには、保険会社のエグゼクティブとして営業をしていた方がよかったと思うのですが。

花田 私は3年目にエグゼクティブになって目標を達成していましたし、金銭的にも困っている状況でもなかったので、東京に進出してみようと思ったのです。実際には、東京にいた保険営業マンから「花ちゃんは、熊本にいるから売れるんだ」と言われたことがきっかけでした。

大坪 火をつけられたわけですね(笑)。実際に東京に来てみて、熊本とは違っていましたか?

花田 全然変わらないですね。ただ、東京の方が単価が高い。熊本は平均年収300万ですから。

大坪 東京は情報が多いので、花田さんがやっていた手法をやっている人も多いのではと思ったりしますが、そうではなかったですか?

花田 そんなことはなかったです。東京も熊本も変わりませんでした。東京でも保険を売っていましたが、それに加えて、ある生命保険会社のロールプレイなどの研修は私が担当していました。熊本で作ったものを教えていたのです。

大坪 メイドイン熊本のメソッドが全国に広まったようなものですね。

花田 熊本でやっていたことは、東京でも問題なく通用しました。今保険会社はセミナーを使った保険の販売を行っていますが、あのような手法もエッセンスは私が持ってきたのです。

保険会社に保険の売り方を教えることは、ソニー生命の時もやっていました。社内研修に使いたいからと、ロールプレイのやり方を撮影させてほしいと頼まれました。その時に「この営業手法は売れる」と思いました。代理店をやりながらやっていたのですが、だんだん忙しくなって営業コンサルティングの方に比重を移していきました。

大坪 花田さんはどちらが面白いと思いました?

花田 営業のコンサルティングです。

大坪 「教える」という意味では、保険を売るのも延長線上にあるわけですよね?

花田 そうですね。だから今でも保険の相談も多いです。私は大学で営業を教えていますが、事例の中に保険の話を入れるわけです。そうすると、卒業生が企業に入って仕事しているうちに保険の話を持ちかけられて、「そういえば先生は保険の話をしていたな」ということで、私のところに相談が来るわけです。

大坪  なるほど。先ほど売り方が分からない人が多いとおっしゃいましたけど、ある意味不思議な話ですよね。これだけ世の中に企業があって、各企業には営業部門があってノウハウは蓄積されているはずなのに、本質を知っている人が少ないというのは不思議な話です。
ところで花田さんは営業と販売をわけて考えておられますか?

花田 はい。販売はセールスですが、営業はセールスの前にマーケティングがあります。つまり、イベントをやるなどして見込み客を自分で見つける必要があるのです。向こうからお客が来てくれるわけではなく、自分で仕掛けを作って集客し、その上で商品を売るわけです。

大坪 見込み客探しから契約まで、1 人で完結するというスタイルですね。

花田 お客さんは自動的に来てくれるわけではありません。だから仕掛け作りが必要。また、商品に魅力があったということも事実です。車や住宅も魅力があって売れるわけですし。

大坪 なるほど。見込み客を作り出す仕掛けを作ることが大切なのですね。

花田 誰でも商品の説明はできるのですが、見込み客を見つけてくることがなかなかできない。

大坪 考えてみれば、見込み客探しから契約まで一人でこなすっていう仕事って保険営業以外にないですね。

「ザイアンスの効果」は絶大。情報発信で接触回数を増やせ!

大坪 花田さんがご自身の著書の中でよく言われているのは「継続して発信することの大切さ」です。そのお話を少ししていただいてよろしいですか?

花田 先ほど言ったように、人を紹介してもらうためには信頼関係が必要です。この信頼関係というのは、接触回数に比例して上がると言われています。心理学で「ザイアンスの効果」と呼ばれています。

例えば、大坪さんと今日会いました、次は何かの会合の席で同席しました、飛行機に乗ったら隣の席でしたということが起こると、信頼関係も上がっていくわけです。たった一度しか会ったことのない人と、何度も会っている人とでは信頼関係が異なりますよね。ザイアンスの効果では、顔を見るということが大きな影響を及ぼしています。

大坪 顔ですか?

花田 顔を何度も見ることによって、その人に対する信頼度が上がるのです

例えば、50歳くらいで体重100キロくらいの人がパンを食べていたとしたら声をかけますか? 普通はかけないでしょう。でも、もしその人がテレビのグルメ番組によく出ている石塚英彦さんだったらどうでしょう?「今日は撮影ですか?」なんて声をかけるのではないでしょうか? テレビ好きのおばちゃんだったら「わぁ、石ちゃん! うちでコロッケでも食べて行って!」なんて声をかけるかもしれません。テレビの画面で何度も石塚さんの顔を見ることによって、あたかも知り合いのように思えてくるわけです。

この効果をうまく使っているのが選挙ですね。町のあらゆるところに選挙ポスターを貼って顔と名前を覚えてもらう。集会を開いて人を集めて握手して接触する。何度も何度もそういうことをやって親しみを持ってもらうのです。こういったことを継続することで、その効果が強固なものになっていきます。ソニー生命時代、今度セミナーやりますというチラシをまいて、その後、セミナーをやりましたというチラシもまいていました。

大坪 やりましたも知らせるのですね。それは面白い。

花田 これをやりましたというのを知らせていると、いつかは行こうという気になるんですね。参加していない人にも平等に送ることで、接触回数が多くなるわけです。

大坪 その発想はなかったですね。

花田 メールもブログも顔写真入りじゃないとダメ。フェイスブックなんて最高のツールですね。

大坪 花田さんは以前からソーシャルメディアなど新しいメディアがお好きですよね。

花田 私は大学の時にコンピューター研究会に所属していました。コンピューターが好きなので、ワープロも出てすぐに買いました。100万くらいするやつをローンで。何でもデータベース化するのが好きで、自動車学校の時もセミナーで集めた名簿を整理していました。

大坪 当時からきちんと名簿を管理されていた。まさにデータベースマーケティングですね。

花田 あの子はどこの自動車学校に入ったとか、この子は進学だとか、この子は誕生日がまだだとか。分布図を作って、自分の自動車学校に来た人と、他校に行った人の色分けをしていました。

大坪 そんなこともされていたのですね。

花田 そういうことをやっていると、ある子が高校3年生になった時、その子のお兄ちゃんはうちの自動車学校で免許を取っているといったことがわかるようになります。そうすると、その子との接点が出てくるじゃないですか。あなたのお兄さんはうちで免許を取ったんですよって。熊本市内の18歳以上の人はすべて見込み客だと思っていましたね。この発想は保険の営業をやっている時も同じでした。

大坪 保険の営業をされていた時は、自動車学校で使った地図やデータみたいなツールはありましたか?

花田 自分のお客の住所を地図で塗っていました。

大坪 本当ですか? 週末にはずっとそのような作業をされているのですか?

花田 そうです。私は今でも顧客カードを手書きで作成しています。

すべての出会いは「新規開拓」である

大坪 今、花田さんの顧客はどういう人ですか? 保険営業の人でしょうか?

花田 保険営業の人はもちろんですが、顧客の顧客も顧客なので、自分が出会った人は全てお客さんだと思っていますね。

大坪 なるほど。誰でも保険に入り得るわけですからそれは成り立ちますよね。

花田 出会った人が保険の相談をしたいということであれば、お客さんの中で保険をやっている人を紹介すれば、私のお客さんのお客さんになりますね。うちのお客さんの中には税理士さんもいれば、飲食店をやっている人もいますので、そういう人たちのお客さんになってもらえばいいということですね。

大坪 なるほど。

花田 例えば、自分の保険のお客さんではないけれど、自分のお客さんであるレストランのオーナーのところに連れて行って、今度はそのお客さんが友達を連れてきてレストランの売上が上がると私は感謝されるわけです。そして、そのレストランのオーナーが中華料理屋のオーナーを私に紹介してくれて、保険に入ってくれたら私のお客さんになるわけですよね。これは立派な「新規開拓」ではないでしょうか。

大坪 そうですよね。

花田 その発想がない限り、新規開拓というのは非常に浅いものになってしまいます。

大坪 私たちは朝起きてから寝るまで無数の人に会っているわけで、その全体をお客さんと考えることで全然チャンスが違ってきますよね。さて、そのお客さんとやり取りするのに、御社はメールの配信システムを活用されていますが、どのような経緯で導入されたのでしょうか?

花田 メールの配信システムは自分のために作ったようなものです。お客さんがどんどん増えていく中で、今度会いましょうとか、よろしくお願いしますとか、ハガキで書いていくのが大変になってきて……

大坪 私もハガキを書いていましたけど、500 通と決めて書いていました。500通って束ねると40 センチぐらいになるんですね。それをカバンの中に入れて毎日持ち歩いて、駅で投函するというのはちょっと限界がありますね。

花田 自動車学校の時からずっとハガキを出していたのですが、メールが登場して切り替えてきたという感じですね。

大坪 私も御社のシステムを使わせていただいているのですが、管理がものすごく楽です。また、直接レスポンスが来るという点がとても良いですね。保険営業で一番大きな契約を取れたのは、御社のメール配信システムのおかげでした。ハガキの発信も大切ですが、やはりリアルタイムのレスポンスがあって、そこから商談につながっていくという意味ではメールはとても大きいですね。

花田 メールはハガキよりも手間がかかりませんから、余った時間をお客さんのために使うこともできますしね。一生懸命ハガキを書くのも大切ですが、時間は限られていますから、お客さんと会う時間とうまくバランスを取ることが大事ですね。

大坪 生産性の低いところを合理化して、生産性の高いところに時間を使うことですよね。今日は非常に面白い話をありがとうございました。

花田 こちらこそ、ありがとうございました。

まとめ

今回の対談シリーズはいかがでしたでしょうか。花田さんのことは昔から存じ上げているのですが、こうやってあらためてお話を伺うと、ものすごくいろんなご経験をされていることを痛感します。今回の花田さんの話を簡単にまとめると大きく二点あります。

まず一点目はお客さんに接する場合。こちらの持っているリソースを出して向こうに提示するという話ですね。具体的に言いますと、保険営業マンは会社から教育を受けているので、営業の専門家という側面があるわけです。そこで、お客さんが経営者だとしたら関心ごとは売上なわけですから、売上に貢献できる自分の一番得意な部分を提示する。
これは私もよく感じることですが、自分の得意分野を隠しておいて、保険の営業という必ずしも歓迎されない側面ばかりを強調してお客さんに接する人がとても多いです。そうではなく、自分の持っているリソースをお客さんに見せて、役立てることでマーケットが広がっていくわけです。点から面に展開できるということですね。

それからもう一点は、目の前にいるお客さんが自分の商品は買ってくれなくても、自分のお客さんのお客さんになるかもしれないということです。自分のお客さんに新たなお客さんを紹介することで、その向こうに存在する紹介がやってくるという発想をする。このことに気づくことによって、朝から晩まで出会う人すべてがチャンスにつながるということになるわけです。

相手にメリットを提供して、出会いを無駄にしない。これは成功されている営業マンに共通した特徴です。営業には共通のセオリーがあるということを、今回のインタビューを通して確信しました。みなさんはいかがでしたでしょうか。みなさんの成功をお祈りしつつ、今回のザ・パワートークを終わりたいと思います。

大坪 勇二

この記事を書いた人

【仕事のプロを育てるプロ】 コンテンツプロデューサー。人脈術と交渉術の専門家。

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