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役員報酬と役員賞与を見直すことで減額可能な社会保険料
法人にとって、どれだけ利益を上げられるかというのは会社を経営する上で、重要なこととなってきます。そのために可能な限り出ていくお金を抑えたいわけですが、社会保険料も企業にとっては一つの大きな出費となってくるでしょう。
その社会保険料は、工夫次第で減らすことが可能です。ここでは、役員へと渡す報酬と賞与の割合を見直すことで、この社会保険料負担を減らす方法を紹介していきます。
この場合の役員は、経営者自身であっても構いません。仕組みは非常にシンプルで、役員報酬の割合を減らし、そのぶん役員賞与の割合を増やすのです。これだけで社会保険料を減額することが可能となります。
例えばですが、役員報酬を月に10万円、役員へのボーナスを1,080万円と設定してみましょう。このケースで社会保険料を計算するには、報酬に関する計算とボーナスに関する計算の2通りを考えなければいけません。
まず、この報酬額では標準報酬が98,000円と定められており、この金額に対する健康保険料は9,712円となります。同じ標準報酬における厚生年金保険料は17,818円となり、両者を足すと27,530円という数字が算出されます。
これが1ヶ月分の保険料となるのですが、1年分では330,360円となり、この額を社会保険料として毎年支払う義務が生じるわけです。
次に計算するのは、ボーナスに対する社会保険料です。
役員賞与は1,080万円で573万円を超えているため、この573万円に9.91%を掛け合わせ、567,843円という健康保険料額を割り出すことができます。
厚生年金保険料ですが、これは150万円を超えているため、この150万円という額に18.182%を掛け合わせ、272,730円という額を算出します。
この両者を合わせた840,573円が、役員へのボーナスに対する年間の社会保険料となるわけです。
役員への報酬(月10万円)に対する社会保険料額とボーナス(1,080万円)に対する社会保険料額を合わせると1,170,933円となり、およそ117万円を1年間に社会保険料として支払う必要が生じることがわかります。
では、この報酬額とボーナス額が変わったら、社会保険料はどのように変化するのでしょうか。次に考えたいのは、月々の役員への報酬が100万円のケースです。
同じように計算をしていきますが、まず保険料を計算するために必要となる標準報酬は980,000円となり、健康保険料は月に92,163円支払う必要が生じます。厚生年金保険料は、標準報酬が620,000円までと決められているので、この数字に該当する112,728円が必要な厚生年金保険料額となります。
両者を合わせて月の社会保険料は204,891円となり、年間では2,458,692円となるので、おおよそ246万円を納める必要が出てくるわけです。
役員報酬が月に10万円で、ボーナスが1,080万円のケースと、役員報酬が月に100万円のケースとでは、毎年支給される金額は変わらないにもかかわらず(1,200万円)、明らかに収めるべき社会保険料額が違うことがわかるはず。後者の方が130万円ほど少なくなり、それだけ企業の負担が減ることになるわけです。
厚生年金を算出する際の税率は変わる可能性もありますし、健康保険料を算出する際の税率は都道府県で異なるので必ずしも同じ額にはなりませんが、それでも大きな差が出てくることが理解できたのではないでしょうか。
役員への報酬とボーナスが損金として計上されることが条件
上記の方法で企業が節税をし、それが企業の利益として意味を成すには、役員への報酬やボーナスが損金、つまり経費として計上される必要があります。
これには必須要件があるため、その点を理解しておかなければいけませ
ん。
役員報酬が損金と認められるための条件とは
役員への報酬が経費として計上可能か否かは、主に2つの条件を満たしているか否かで判断されます。
まずは、月払いであることです。報酬を毎月企業から役員へと支払い、また、それが事業年度内は常に一定であることも求められます。つまり、隔月での報酬の支払いでは認められず、また、月ごとに報酬額が変化(増額)しても、一部は損金として認めてもらえなくなるのです。
ただし、定時の株主総会で報酬額が改定される場合は除きます。
・事業年度開始月から3ヶ月以内にこの報酬の改定が行われること
・報酬が改定される前に支払われていた報酬額が毎月同じ金額であること
・報酬額が改定された後の支払い金額も毎月変わらないこと
この3つの条件がそろえば、役員への報酬額が増額されたとしても、「定額同額給与」として認められ、全ての金額を損金として計上することが可能となります。
役員賞与が損金と認められるための条件とは
ボーナスに関しては、「事前確定届出給与」が条件となっています。株主総会で役員へのボーナスの金額と支払い時期を決め、その株主総会から1ヶ月以内に税務署へと届け出る必要があるのです。
もしボーナスが損金として認められなかった場合、その分に対する法人税も納める必要が生じます。ボーナスを受け取った役員は、そのボーナス分にも所得税が発生するため、二重課税の状態になる可能性も否定はできません。
この点には十分に注意しながら、役員賞与の額等を定め、必要な手続きを行うようにしてください。
社会保険料額を減らすデメリットとリスク
上で紹介してきた社会保険料を減額する方法は、決して万能なものではありません。当然、リスクも出てくるわけです。
例えば、毎月支給する報酬額を減らすことで、その役員の退職金に悪影響が出ることも否定はできません。
役員への退職金が損金として算入されるには、最終報酬月額に在任年数を掛け合わせ、それにさらに功績倍率を掛け合わせることで退職金を算出する必要が出てきます。
もし役員への月ごとの報酬が少なければ、その金額で損金算入額が割り出されるため、経費として計上できる額が少なくなってしまうのです。
もし役員報酬を月に10万円とし、それを退職まで支給したとして、20年間働き続けたとしましょう。功績倍率を3倍とした場合、全ての数字を掛け合わせ、退職金は600万円と算出することができます。
もし役員報酬を月に100万円とし、あとは同じ条件で計算すると、退職金は6,000万円となり、かなりの差が出てくることがわかるはず。
この額がそのまま損金として計上できる額となるので、税金の納付額にも大きな影響が出てきてしまうのです。
もちろん、これまでずっと月に10万円の報酬額だったにもかかわらず、納税額を減らそうと最終報酬月額のみを大幅に上げようとしても、それが認められることはありません。
検討に検討を重ねた上で報酬額や賞与額を決定する
社会保険料のみを削減することは、さほど難しいことではありません。役員の報酬額や賞与額を上手に調整すればいいのです。しかし、説明したようにデメリットやリスクも出てくるため、実際にこの方法を採用している企業は多くはないようです。
ただ、企業にとって得か損かはケースバイケースであり、もし役員の在任期間が極端に長かったり、報酬とボーナスの割合を綿密に計算することができれば、損をしない形でこの方法を採用することも可能でしょう。
こうしたことを考慮し、また、入念に検討した上で取り入れることで効果的な節税を行うことができ、企業の利益も十分に確保することができるはずです。