自分に世間からの需要がある感激
起業家や経営者のためビジネス書をご紹介します。今回は司馬遼太郎「新史 太閤記」です。司馬遼太郎の本がビジネス書というのは奇異な感じがするかもしれませんが、私にとっては、この司馬遼太郎の本、メチャメチャビジネス書です。20代の頃から何回読み返したか分かりません。サラリーマン時代も、会社でしんどいことがあったら、トイレにこもってよくこの本を読んでいました。もうボロボロですが、これでもなんと3代目です。何回も読み返すので、ボロボロになって表紙が取れてしまって、買い換えて買い換えて3代目になりました。こちらをご紹介します。
まず、「新史 太閤記 上巻」のある一節です。
「自分に世間の需要がある。初めてのことだけに、小僧にとってこれほど新鮮な感激はない。それに希望ができた。商人になれるということだった。高野聖という身が、世間の裏道臭くて、陽気なこの小僧の性には合わないが、「高野聖そのものにはならぬ」と、これも心中企劃を立てている。彼らから、品物の仕入れ先や物を売る法、さらには利の得方を学び、不発のままで商人になってみたい。家に帰ると、母親にその一件は言わず、「釣りに行く」と言って道具と車を持って出た」
という話です。
これはどういうことかと言うと。後に藤吉郎となる彼の、まだ子ども時代の話です。彼は生まれてからすぐ父親を亡くして、母が再婚して新しい家庭に居場所がないということで、寺に入れられるわけです。その境遇の中で、家を出るという前の晩、前の日の話です。僕も生まれてすぐ父親を亡くしたんですが、ここのところすごく共感するんですよね。
ここでのポイントは、「自分に世間からの需要がある」、「需要がある」という感激に関してです。私自身も、20年前にサラリーマンを辞めて生命保険業界に入ったときなんですけども、やっぱりそのとき感激したのは、第1号契約です。自分から身銭を切って保険に入ってくれる、保険を買ってくれるお客さんがいた」という感激なんですよね。この感激ってやっぱりすごく、ものすごく大きい、ものすごく嬉しい衝撃だったんです。
正直当時は、その保険販売苦労の連続でしんどかったんですけど。それでもやっぱり辞めなかった、この仕事を辞めようと一度も思わなかったのは、その感激、「自分に世間の需要がある」という感激から入ったからなんですよね。あなたも今のビジネス、ひょっとしてモチベーションを失うことがあるかもしれない。「しんどいな」と思うことがあるかもしれない。でも必ず、今の仕事をしているその感激、「自分に世間の需要がある」という感激を、どこかで得たはずです。その感激を思い出して、モチベーションをまた引き出して、一緒に走っていきましょう。
私が人付き合いをする上で一番大事にしていること
この本の中に、人付き合いのときに、いつも思い浮かべる一節があります。
これは主人公である藤吉郎が、竹中半兵衛を口説くときに言うセリフです。
「わしは、人を裏切りませぬ。人に惨くしませぬ。この2つだけがこの小男の取り柄でございますよ」
このシーンに私はすごくぐっときます。「人を裏切らない」「人を惨くしない」というところです。
僕も人と付き合うときに自分で考えていること。自分でずっと心がけてることです。ついつい今人間関係、ビジネスがあって、相手によって態度を変えがちじゃないですか。でもそれはしないと決めています。態度を変えるということは、人によってはむごくしてもいい、酷い態度をとってもいいということです。それはしないと思っています。どんな相手でも態度を変えないということがすごくカッコよく思い、僕がずっと心がけていることです。
やっぱり周りを見ていて、僕がはっきり尊敬できない人はそういうところです。例えば社長とか経営者だったら、社員に対してワガママなことを言ってもいいわけじゃないですか、酷い扱いをしたっていいわけじゃないですか。それってある程度許容できるよねっていうふうなお約束があってだと思うけれど、それを実際にやっている経営者を見ると、僕は引きます。すごく人柄が嫌だし、はっきりそういう人とはもう付き合わないと決めて関係を断った経営者さんもいます。社会的な地位が上がれば上がるほど、すごくそこは大事にしなければいけないと思います。これは損得とはまた違う軸で、美しさとかカッコ良さだと思います。
とは言え僕も弱い人間だから、ついついやっちゃいがちなわけです。例えばうちの古くからいる執行役員とか、もう近しいから、ついつい厳しい悪い態度をしがちです。パーフェクトにやってるわけじゃないです。なので自分自身への自戒も込めて、「人を裏切らない」「人に惨くしない」、「相手によって態度を変えない」ということを思います。
自分の子どもにも唯一伝えたいことが、「相手によって態度を変えることをしない」ということです。
これが、僕が人と付き合う上で一番大事にしていることです。