『保険営業マンなら必ず知っておきたい「スモールM&A」の知識』では、今巷で注目されているM&A、スモールM&Aが、保険営業マンにとって非常に関係のあるものだというお話をしました。
では、実際にM&Aってどんなふうに行なわれるのか?……専門用語も多く出てきますが、極力わかりやすく解説していきます。
M&Aには11のステップが!
今回は、売り手(譲渡側)に立った場合のM&Aのステップについてみていきます。細かく分けると、そのステップは11あるとされます。
- 事前準備
- M&Aアドバイザーの選定
- 買い手候補の選定、匿名打診
- 秘密保持契約
- 企業概要書の提示
- 顔合わせ会談
- 基本合意契約
- デューデリジェンス
- 条件交渉
- 最終契約
- 統合作業
保険営業マンであるあなたがクライアントから保険契約をいただくステップと比べて、どうでしょうか?
何だか大変そう?
ただ、すべてのケースに必ずこれらの段階が必要というわけではなく、スモールM&Aの場合は省略できるものもあるでしょう。ここではあくまでもM&Aの「一般的な手順」としてこのステップを知っておいてください。
ステップ1 M&Aの事前準備
数あるM&Aの仲介専門会社……でも、そこに依頼する前には、事前の準備が必要です。
- M&Aという選択は妥当なのか? 他に選択肢はないか?
- 自社の議決権は確保できているか?
- 自分や家族、従業員にとって幸福な買い手はどんな企業か?
- どんな条件で買ってほしいか?
少なくとも、これらについては検討しておくべきです。
ステップ2 M&Aアドバイザーの選定
M&Aで売り手と買い手の間に入るアドバイザーは、「M&Aアドバイザー」あるいは「M&Aアドバイザリー」「フィナンシャルアドバイザー」などと呼ばれています。また、コンサルティングの一環としてM&Aに関するアドバイスを行っているコンサルタントもいて、アドバイザー役は必ずしもM&A会社に依頼しなければいけないという決まりはありません。
「ノンネムシート」って何だ?
ステップ3 買い手候補の選定、匿名打診
「買い手」となり得る候補企業のリストを作成します。この場合、同業他社が最もシンプルで想像しやすい買い手候補になりますが、もちろんそれに限定することはありません。
買い手の企業のメリット・ベネフィットを考えながら候補先を選定すると良いでしょう。そこから、条件に合いそうな候補先を数社に絞り込んでいきます。
買い手候補の選定が終わったら、匿名の「企業概要(ノンネムシート)」を作成して買い手候補の会社に提示・打診します。ノンネムシートには、事業内容や売上高、年間利益、売却理由などを記載するのが一般的です。譲渡希望金額は決まっていない場合は「要相談」としても良いでしょう。
ステップ4 秘密保持契約
打診した買い手候補企業のなかから、買収に興味を示す企業が現れ、ノンネムシートよりさらに詳細な情報の開示を求められた場合は、「秘密保持契約」を結びます。
秘密保持契約は、NDA(Non-disclosure agreement)あるいはCA(Confidentiality Agreement)と呼ばれることもありますが、基本的に同じものです。
M&Aでは、売り情報が社員さんや株主、取引先などのステイクホルダーに漏れることは避けなければいけません。秘密保持契約が結ばれると、会社の名前や財務状況などが初めて開示されますので、情報管理が極めて重要になります。
ステップ5 企業概要書の提示
秘密保持契約が締結されると、次のステップは「企業概要書」の提示です。企業概要書は、「IM(Information Memorandum)」とも呼ばれています。
企業の詳細情報を買い手候補企業に提示し、買収を検討してもらいます。ノンネムシートとは違い、企業概要書は会社名や詳細な事業内容、財務情報が記載された書類です。定款や登記簿、決算書なども含まれます。
ステップ6 顔合わせ会談
企業概要書を見たうえで、買い手候補が具体的に買収を検討する段階になると、トップ(社長)同士の面談が行われます。これは「社長と事業責任者」の面談になることもありますし、財務責任者などが同席する場合もあります。
なお、ステップ5の企業概要書の提示とステップ6の顔合わせ会談は、順序が逆になることもあります。
ステップ7 基本合意契約
このステップは、必須というわけではありません。買い手に買収の意思がある、あるいは売り手に売却の意思があるという表明文のようなものです。
基本合意書は、「MOU(Memorandum of Understanding)」と呼ばれることもあれば、「LOI(Letter of Intent)」と呼ばれることもあります。基本合意書ではなく、意向表明書と表現されることもあります。内容は以下のとおりです。
- 買収の基本的な条件
- 誠実交渉義務
- 独占交渉権
- 守秘義務
- 譲渡までのスケジュールの概略
基本合意の後には「デューデリジェンス」
ステップ8 デューデリジェンス
顔合わせ会談後、または基本合意後に、買い手企業は売り手企業の実態を把握するためにデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスは、「デューデリ」「DD」などと呼ばれることもあります。一言でいえば「詳細調査」のことです。
具体的には、買い手企業が専門家に依頼し、その専門家が売り手会社を訪問して帳簿を閲覧したり、書面ではわからない会社の状況などを面談等でチェックしたりします。
一般的には、「事業デューデリジェンス」や公認会計士が行う「財務デューデリジェンス」があり、他にも弁護士が行う「法務デューデリジェンス」や、対象企業によっては「技術デューデリジェンス」などもあります。
財務デューデリジェンスは公認会計士、法務デューデリジェンスは弁護士といった専門士業が担うケースが多いですが、技術デューデリジェンスはエンジニア・プログラマーが行います。
すべてのデューデリジェンスが必須というわけではなく、買い手企業が必要に応じて行います。
ステップ9 条件交渉
デューデリジェンスの結果、買い手企業の買収の意向に変更がなければ、条件交渉のステップに進みます。経営者や役員、従業員の処遇、最終契約までのスケジュール、遵守すべき事項、守秘義務などに関する合意事項について固めていきます。
場合によっては、リストラ計画などを作成することもあります。細かい条件を詰め、最終的な譲渡価格を決定します。
ステップ10 最終契約
条件交渉が完了したら、最終契約のステップです。譲渡の内容(株式譲渡や事業譲渡など)、売買価格を定めた最終契約書を取り交わします。株式譲渡であれば、株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement=SPA)を交わします。
売り手企業は、買い手企業から譲渡代金を受け取ります。譲渡代金は、一括で支払われることもあれば、条件交渉次第では何度かに分けて支払われることもあります。
ステップ11 統合作業
最終契約が終わればそれでM&Aは完了、というわけではありません。最終契約後には統合作業という工程があり、この統合作業がM&Aの総仕上げです。統合作業は、「PMI(Post Merger Integration)」と呼ばれています。
ステップ6ではトップ同士の会談、あるいは事業責任者等との会談が行われましたが、統合作業では従業員同士の接点が生まれてきます。つまり、買い手企業のスタッフが売り手企業の現状を理解していく段階です。M&A成立後は、買い手企業から売り手企業に数人常駐し、事業の流れや既存スタッフの特徴などを把握し、ノウハウを共有していくことが重要です。
トップ同士だけではなく、現場のスタッフ同士がお互い信頼できる相手であると確認し合うことが一番の目的です。
M&Aは成立したらそれで終わりではなく、事業承継のひとつの形ですから、末永い関係構築が重要です。
保険営業マンだからできること
いかがでしたか?
ちょっと専門的な用語が多かったので、ずいぶん難しく感じたかもしれませんね。
M&Aアドバイザーの役割を担うためには、もちろんそれなりの知識が必要となります。
その知識を、経験を保険営業マンであるあなたが手にしたら、どうでしょう? クライアントである社長さんにとって、あなたはまさに「会社の未来を担う救世主」となるかもしれませんよね。
M&Aを実施するすべてのステップに、社長さんにとって「信頼のできる人」が必要です。優秀な保険営業マンは、きっとそんな存在になれるはずです。