「後継者不足や後継者不在の打開策として」「中小企業の成長戦略として」「起業の新しい形として」など、さまざまな視点から注目されているスモールM&A。そのスモールM&Aに取り組むことになった、ある保険営業マンのお話を半フィクション・半ノンフィクションでご紹介します。前回【シロウトM&A奮闘記 Vol.1】ある保険営業マンのスモールM&Aへの取り組みの続きです。
「スモールM&Aアドバイザーになる」と宣言して起こったこと
前回、メールの署名欄やフェイスブックなどのSNSのプロフィール欄、そして名刺にも“スモールM&Aアドバイザー”の一行を加えた保険営業マンのカワカミさん。
相変わらず、毎日数件の商談をこなしていて忙しそうです。
新しい名刺を作ってから数日後、旅館を営む中上社長とお会いする機会がありました。
地元の他の既契約者からのご紹介です。
「やぁカワカミさん。はじめまして。
いや、商工会で一度お会いしたことがあったかなぁ?
お忙しいところありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございます。中上社長」
カワカミさんは、“スモールM&Aアドバイザー”と書かれた名刺を中上社長と交換します。
「あれ? 保険屋さんって聞いてたけど
カワカミさんは随分カッコいい肩書もお持ちなんですね」
「正直に申し上げると、最近M&Aについて勉強したばかりなんですけどね。
実は、過去に後継者の相談をしていただいたことがあったのですが、
そのときは全く社長のお力になることができなくて、すごく後悔が残ったんです。
あんな想いはもうしたくないし、後悔もしたくない。
中小企業を次世代につないでいきたい。
子どもたちに誇れる仕事がしたい。
そんな気持ちで、東京で勉強してきました」
それを聞いて、中上社長はしばらく黙ったままです。
「そうか。すごく良い人を紹介してもらった。
私は2代目で、ありがたいことに3代目も一緒に旅館で働いてくれている。
けど、後継者がいなくて困っている経営者は友人にもいるよ。
今度、カワカミさんをご紹介しても良いかな? 」
中小企業社長は孤独
中上社長とカワカミさんは、事業承継やM&Aの話で盛り上がりました。
90分の商談だったはずが、気づけば3時間に。
そのほとんどが、事業承継、特に後継者問題についてでした。
「こんな話、なかなか相談できる相手がいないんだよ。
だって、経営者は従業員に相談なんてできないでしょう?
銀行さんにだって、『後継者がいないから、もう事業を辞める』なんて相談しにくい。
税理士の先生に相談したら『できる限り続けましょうよ、私も歳だけどがんばるから』と言われちゃったという話も聞くしさ。
社長って孤独なんだよね」
「そうなんですね。経営者の方からお聞きすると、やっぱりそうなんだと思いますね。
信頼関係がないと、事業承継などの繊細なことは相談できないですよね。
私ももっと勉強して、お役に立ちたいです」
「会ってみないことには、信頼関係は築けないでしょう?
私はこうしてカワカミさんと友人を通じて知り合うことができた。
信頼関係は、会わないと始まらないよ。
でも、人と人だから相性ってものがある。
どうしても相性が合わないって場合もあるだろうけど、私とカワカミさんはまだ会って数時間だけど、もう信頼関係はできてると思うよ。
だから、後継者で悩んでる人を紹介するよ。それくらいしかできないけどさ」
スモールM&Aでは、コツコツとした活動や気遣いが大切
一枚の名刺から、思いがけない話に発展した中上社長との出会い。
カワカミさんは、その後、中上社長からのご紹介で事業承継に悩む3人の社長と出会うことになります。
- 不動産仲介業を営む坂本社長
- 食品卸売業を営む山中社長
- 喫茶店を営む森岡社長
みなさん60代後半で、後継者はいません。
カワカミさんは、各社の近くに行ったときは事務所に顔を出したり、メールでやりとりをするなどして信頼関係を深めていきました。
いきなりM&Aの話をすることはせず、まずは地固めです。
- 身内承継の可能性は本当にないのか
- 親戚に承継できる人はいないか
- 社内で引き継げる人はいないか
- どんな夢を描いて起業したのか
- 事業をしていて嬉しかった思い出
- 引退したらどんなことがしたいか
など、過去のこと、現在のこと、未来のことを話しながら、信頼関係を築いていきます。
人と人のお付き合いですから、コツコツとした積み重ねが大切ですね。
次回以降も、シロウトM&A奮闘記として、保険営業マン・カワカミさんのスモールM&Aへの取り組みをご紹介します。