「人を雇う」ことはますます困難に!
「お客様の抱える問題を理解する」ことは、保険営業マンにとってとても大切なことですよね。
たとえばこれが法人保険営業だとしたら、会社の社長さんの抱えている問題や企業としての今後の課題を理解し、それに対して自分なりの見解を述べたり、一緒になって解決策を考えるということで、社長=お客様の信頼を得ることができるでしょう。
保険営業マンにとっての読書とは、単に自身のスキルアップや自己啓発のためだけではないわけです。
今回ご紹介する本は、今現在、日本のすべての企業が抱えているホットな……いや、非常に深刻な問題である「人材不足」とその対処法について触れたものです。
核となるテーマは、タイトルのとおりスバリ「どうすれば(若い)社員を辞めさせないようにできるか?」ということ。
誰もが認識していることですが、現在は少子高齢化・人口減少のまっただ中。この傾向は今後ますます進みますから、日本国内のマーケットは縮小の一途をたどり、いままでと同じマーケットでいままでのようにビジネスを展開していては、企業の業績はジリ貧ということになります。
じゃあどうするか? そう、〝新しいことを始める〟必要が出てくるわけです。新規事業、新会社の立ち上げ、新規の出店、新商品の開発、対象顧客を変える……などなどです。
このとき、会社に何が必要かといえば、それは「人材」。新しい何かを〝やる人〟がいなければ、会社は先へ進むことができません。
しかし……時代は人口減少。新たに人を雇い入れることは、簡単なことではありません。また、「会社を辞めたい」という人材がいたからといって「辞めたいやつは辞めていい。替わりに優秀な人間をさがしてくればいいさ」などとも言っていられません。〝優秀な人材〟どころか、替わりの人間そのものが少ないわけですから。
これからの時代は「いかに今(会社・組織)にいる人材を辞めさせないようにするか?」「その人間のパフォーマンスをいかにして引き上げるか?」が、すべての企業にとっての大きな課題となります。
「内面」ではなく「行動」に徹底フォーカスしたマネジメント
この問題への〝打つ手〟、経営者、マネジャーがやるべきことを「行動科学マネジメント」の見地から紹介しているのが、石田淳著『辞めさせないマネジメント』(PHPビジネス新書)です。著者は日本における行動科学マネジメントの第一人者。著書『教える技術』シリーズはベスト&ロングセラーとなっており、行動科学の理論に基づいたマジメント手法をビジネス、セルフマネジメント、教育とさまざまなジャンルに活用して、著書も多数あります。
『辞めさせないマネジメント』は、前半でいわゆる〝今どきの若者〟、すなわち20代の若手社員の傾向(突然辞めてしまう、会社への帰属意識が希薄、価値観が多様、など)について触れているものの、後はほとんどが「誰にでも通用する」実践的なマネジメント手法の解説となっています。
行動科学マネジメントの特徴をあえて一言で表すなら、「具体性を最重要視したマネジメント」ということでしょう。曖昧な要素を排除し、「目に見えるもの」「数えられるもの」「言葉で言い表せるもの」などにフォーカスしたマネジメントです。
「目に見えるもの」「数えられるもの」「言葉で言い表せるもの」……それが何かといえば、「行動」です。「人の内面を変える必要はない」「変えるべきは(マネジメントする)相手の行動だけでいい」と著者はいいます。これを間違えて内面ばかりにアプローチすることによって、逆に相手との齟齬が生まれることもあります(たとえば〝良かれと思って〟若い部下を飲みに連れていき〝腹を割って〟話してやる気になってもらおうと思ったのに、その部下にとっては〝罰ゲーム〟に感じられてしまった……なんて例も挙げられています)。「もっとやる気を出せ!」なんていう叱咤激励は、曖昧以外の何ものでもないわけです。
では、人が行動を取るメカニズムとは? どんな行動を取らせるようにすればいいのか? どんな働きかけをすれば部下が行動するのか? ということが、この本では丁寧に語られています。行動を促すためには、「動機付け」が不可欠であり、それは出世や給与(金銭的報酬)とは限りません。日常の声かけや「ほめる」という行為も立派な動機付けとなり、だからこそ気をつけなければならないというのです。
これらの概念は、すべて人間の行動原理に基づいたもの。だから「誰にでも通用する」わけですね。
そう、「辞めさせないマネジメント」とはどういうマネジメントかといえば、それがすなわち「行動科学マネジメント」ということになるわけです。ですからこの本は、行動科学マネジメントの基本概念を学ぶにもぴったりの本といえるでしょう。
(編集部)