凡人の、凡人による、凡人のための成功法則? 神田昌典・著『新版 非常識な成功法則』

カリスマの〝粗削り〟な主張

ビジネス書を好む人、とくに現在40~60代のビジネスマンで「神田昌典」の名を知らない人は、まずいないでしょう。
アメリカ発のダイレクトレスポンスマーケティングを日本に適したかたちに仕立てて紹介し、その後のビジネスシーンを変えた人。
「フォトリーディング」や「マインドマップ」を日本に広め、能力開発の分野に新風を巻き起こした人。
ビジネス書著者、経営者、起業家など、多くのフォロワーを生んだオピニオンリーダー。
まさに「カリスマ」というべきビジネス書作家であり、著作活動は控えめになったものの、今なお多くのビジネスパーソンがその動向に注目する人物です。
そんな神田氏が(おそらく)初めて書いた(元本は2002年発行)「自己啓発書」が、今回ご紹介する『新版 非常識な成功法則』(フォレスト出版)です。
この本の魅力は、なんといっても「成功者・神田昌典」が、自身の成功の秘訣を赤裸々に語っていること。それまではあくまでも「マーケティングスキル」についてのみを紹介してきた著者が、初めてメンタル面や「これからの時代を生き抜く知恵」にまでも言及したのです。
で、著者が誰のために、どんな立場からそんなような話をしているかというと、それは「凡人」。お金もなくて、心も貧しい……「偉人」とは真逆の凡人のために、そこから抜け出すための方策を示しているのです。「凡人の持っている〝悪〟の感情」(お金が欲しいとか、虚栄心とか嫉妬心とか)をエネルギーに変え、凡人から抜け出そうというのが、この本の大前提です(このあたりを簡単に図解してくれているところがまた面白い)。
また、序章で著者は「この成功法則は、三七歳の怖いもの知らず、成金の書いた粗削りのものだ」「この本の目的は、あなたの年収を10倍にすることだ」と言い切ります。この開き直り具合というか〝わかりやすさ〟が、著者・神田昌典の最大の魅力なのだと思います。もちろんご本人はさまざまなことを考え、深い思想を持っているのでしょうが、あえてわかりやすく(そして親しみやすい語り口で)書いている。上手いですよね。

著者がいう〝成功者続出の秘密〟とは?

さて、この本で紹介している著者自らが実践した成功のための習慣は、かつて常識と見られていたものとは真逆のものばかりです。
「やりたいことを見つけるのではなく、やりたくないことを見つける」
「自分催眠術をかけて、潜在意識を意図的に活用する」
「自分に都合のいい肩書きを持って、セルフイメージを変える」
「音声教材や速読などで、大量の情報をインプットする」
「嫌な客はさっさと切る」
「お金に対する〝罪悪感〟みたいなものを払拭して、溺愛する」
「決断は〝思い切り〟ではなく、〝シナリオ〟重視」
そして最後には、成功の果てにある「ダークサイド」、光が当たったことでできる〝影〟の部分への注意喚起までしてくれているのですが、そんなところもまさに「凡人のための」成功法則という感じであり、凡人から成功者へと変貌した〝自称・成金〟の神田氏ならではの、実体験からの見地だと思います。

筆者の手元にあるのは2002年の元本ではなく、内容を一部修正した新装版(2011年発行)なのですが、この新装版に寄せた神田氏のまえがきが秀逸です。
「成功法則なんて本当は大嫌い」
「この本は自分の著作のなかで一番嫌いな本」
「本音で書きすぎた」
「でもこの本を読んで成功している人がたくさんいるから、感謝」
なんですって。
この本を読んで、その内容を忠実に実践した人には、凡人から脱して成功者となった人がたくさんいるということです。有名な話ですが、ベストセラービジネス書作家の勝間和代さんが「この本のおかげで成功した」と公言しています。
で、同じくまえがきで神田氏自身が「なぜこの本を読んだ人から成功者が続出しているか」ということを軽~く分析しているのですが、それは「成功法則のための成功法則じゃないから」ということです。要するに「こうやったら、お金が稼げる」ということが明確に書かれている、ということなのでしょう。だからこの本は、実は〝成功法則〟という「自己啓発本」の体をした「バリバリのビジネススキル本」だともいえると思います。
さらにまえがきでは「この本の内容は10年前のもので、今は他の本でもフツーに書いてあるスタンダード」であると謙遜(?)していますが、これまでになかった非常識な提言の数々が、影響を受けた実践者によってスタンダード=成功のための〝常識〟へ変わったことこそ、この本のすごさなのでしょう。
(編集部)

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この記事を書いた人

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